NEC離脱で混迷、国策スーパーコンピュータ開発
利用者側からも困惑の声が上っている。ベクトル部の利用を予定していた気候研究ではソフトウェアの大幅な変更が必要で、新たな費用負担が生じる。東京大学気候システム研究センターの木本昌秀教授は「高度な技術が必要なため、半年から1年かかる」と言うが、ソフト設計に必要な詳細設計はいまだ一般公開されていない。スカラ部を使ってナノテク研究を予定する北陸先端科学技術大学院大学の寺倉清之教授も「利用期間は5年間に限られており、研究に支障が出かねない」と危惧する。
完成後の利用のあり方を検討する戦略委員会のメンバーでもある寺倉教授は、ユーザーである研究者や企業の意見を聞いてから、開発計画を始めるべきだと主張する。文科省のトップダウンで開発が実施されるスパコン開発のあり方を、「まるでコンクールのように速さを競うことばかりを重視しているが、問題は完成後の利用のあり方だ」と非難する。
10年で能力が1000倍拡大するスパコンは、日進月歩の開発競争が繰り広げられている。たとえ日本が世界1位になっても、名誉を保てるのは一瞬にすぎない。開発側にも大きな負担を強いるだけに、本来必要なのは世界1位を第一目標にすることではなく、利用者と、それによって得られる対価を重要視した計画のあり方ではないだろうか。
(麻田真衣 =週刊東洋経済)
photo:Manatee_tw Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0, 2.5, 2.0, 1.0
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