「青函トンネル」異常時の避難は大丈夫なのか 北海道新幹線の開業まで1カ月を切った!

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訓練の終了後、新函館北斗駅で行われた西野史尚副社長による講評

特に気になったのは、今回の訓練がどのような状況を想定しているのかについて詳細を問う報道陣に対し、関係者から出た「あくまで訓練だから」という言葉だ。

訓練の重要部分である「逆線走行」がどの地点まで行われるかについても「今回はそこ(吉岡定点で乗客が列車に乗り移った直後)までで設定は終わっているので」と、言葉を濁す場面が見られた。

また、定点に設けられた避難所には非常食の備蓄があるとの説明に対する「定点にはどの程度の時間滞在する可能性があるのか」「備蓄はどの程度の滞在を想定して用意しているのか」といった問いに対しても「ここはあくまで一時的な待機場所」であるとして、その場で明確な答えはなかった。

だが、「火災」ではないにせよ、青函トンネル内での列車トラブルで乗客が避難する事例は実際に起きている。2015年4月にはトンネル内を走行中の函館発新青森行き特急「スーパー白鳥」から発煙し、乗客乗員が定点を経由して地上へ脱出するトラブルがあった。この際は、124人の乗客がトンネル内を歩き、定点からケーブルカーで地上への脱出が完了するまでに約5時間半かかった。

北海道新幹線H5系の定員は、この際に避難した人数よりもはるかに多い731人。JR北海道は、定点から地上へのケーブルカーの定員を増やすといった避難用設備の増強を行うと発表しているが、完成は北海道新幹線開業には間に合わず、まだしばらく時間がかかるという。

いずれにせよ、避難には一定の時間が必要なのは間違いなく、想定より長引く可能性も考えられないわけではないだろう。救援列車が来るまでに時間がかかることもあり得る。

さらなる課題の洗い出しを

もちろん、実際にはそういったケースも想定して準備を行っているのだろう。だが、こういった訓練の場面で避難施設などに関する明確な答えが返ってこない様子を見ると、情報の共有という点で一抹の不安を感じざるを得ない。初回の異常時訓練で停電の原因となったのは、簡単に言えば「マニュアルの不備によるミス」だった。社内の担当者間のコミュニケーションや、あらゆるケースを想定しなければならない異常時対応の策定に「抜け」はないだろうか。

「訓練は無事に終えることに意味があるわけではありません。課題を見つけ出すことが訓練の目的です。どんな時でも課題がゼロということはありえない。訓練のための訓練ではなく、さらに課題を洗い出すということを行ってまいりたい」。訓練の終了後、参加した社員らを前に西野史尚副社長は語った。

訓練が行われた日はちょうど開業日の1カ月前。早朝の函館駅前には、雪が降りしきる中にも関わらず初日のきっぷを手に入れようと列を作る人々の姿が見られた。駅が函館市街地から離れている、東京〜新函館北斗間の所要時間が4時間を超える……などといった不満や課題を指摘されつつも、北海道新幹線の開業は期待と注目を集めている。

昨年8月の訓練運転初日にはポイントが切り替わらなくなるトラブル、そして今回の異常時訓練1回目でもトラブルが発生し、北海道新幹線に対する信頼はやや揺らいでいる。JR北海道は多くの人々の新幹線への期待を裏切らないためにも、さらに強い安全確保への意識が求められる。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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