サントリー、2ケタ増益に潜む"あるカラクリ" 新浪社長が「蒸留酒の改革」に力を注ぐ理由

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サントリーHDは2016年12月期の連結営業利益について、前期比1.6%増の1880億円となる見通しを発表している。ビームサントリーの成長が続く一方、ユーロ安によってSBFの欧州事業で原材料の輸入コストが膨らむことなどから、増益幅は小幅にとどまるという想定だ。

踊り場を経てサントリーHDが再成長を遂げるには、「1+1=2」という単純な足し算ではない、本格的なシナジーを早期に生み出す必要がある。

米国でリンゴ風味のウイスキーを発売

ライバルの攻勢を退け、「ジムビーム」ブランドのさらなる浸透を図る(撮影:今井康一)

グローバルの蒸留酒市場において3番手に位置するビームサントリーは、世界中に販売のネットワークを持つ。新浪社長はドイツ、豪州、ロシア、メキシコ、インドなどを重点国に挙げつつも、目下の最大の課題は本拠地である米国での足場固めだとする。

世界最大の蒸留酒市場である米国には、この分野で世界1位の英ディアジオや同2位の仏ペルノ・リカールが攻勢をかけている。若年層や人口の増加が続くヒスパニック層を囲い込もうと、主力の「ジムビーム」ブランドからリンゴ風味のウイスキーを投入した。豊富な品ぞろえを武器に、さらなるブランドの浸透を目論む。

新浪社長は昨年12月のインタビューで、「日本と違って、米国では(醸造家の思いなど)ストーリーのあるクラフトウイスキーを好む若者が多い」と語っていた。こうした層には「メーカーズマーク」や「ノブクリーク」などの高価格帯ウイスキーを売り込んでいく構えだ。

むろん、米国にかかりきりになって、新興国を放置しておくわけでもない。インドなどでは、スコッチウイスキーの「ティーチャーズ」のように比較的値頃な製品を拡販する。これまで十分に生かしきれていなかった既存の販路を、徹底的に活用する方針だ。

一方で、ブランドを世界中で浸透させるには、継続的な品質の向上が欠かせない。ビームサントリーは昨年、日米欧の技術者を集め、「ウイスキーカウンシル」という委員会を立ち上げた。原料から醸造、貯蔵、ブレンドに至るまで、生産技術に関する各国の知恵を結集させ、徹底的に議論し、味や香りを追究する。

一連の取り組みを通じ、ビームサントリーは現在約1000億円のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を、2020年末までに倍増することを目指す。10月に就任3年目を迎える新浪社長。2016年は、ビーム買収の真の成果を早期に生み出すための“仕込み”の1年となりそうだ。

中山 一貴 東洋経済 記者

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なかやま かずき / Kazuki Nakayama

趣味はTwitter(@overk0823)。1991年生まれ。東京外国語大学中国語専攻卒。在学中に北京師範大学文学部へ留学。2015年、東洋経済新報社に入社。食品・小売り業界の担当記者や『会社四季報 業界地図』編集長、『週刊東洋経済』編集部、『会社四季報』編集部、「会社四季報オンライン」編集部、『米国会社四季報』編集長などを経て2023年10月から東洋経済編集部(マーケティング担当、編集者)。「財新・東洋経済スタジオ」スタッフを兼任。

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