山口が「いつもドラクエみたい」と表現する出会いの成果として、インドネシアで作っている銀線細工の技術を応用したジュエリーのほかに、ネパールではカシミアなどの天然素材と草木染の技術を活かしたストールやマフラー、ラオスでは伝統手織物「シン」を用いたバッグや小物を生産している。
今も旅は続いており、台湾の少数民族など目をつけている地域があるという。
次なる挑戦
2008年3月、山口は毎日放送のドキュメンタリー番組「情熱大陸」に登場した。26歳の若々しい起業家は、「ファッションには世界を動かす力がある。だから一流のブランドになりたい」と熱く語っていた。
番組放送から8年、いまもその想いは変わりませんか?と尋ねると、山口は当時と変わらぬまっすぐな視線で大きく頷いた。
「お店がいっぱいできて、ブランドの背景を知らないたくさんの人が商品を買ってくれている状況を見るほどに、ファッションの力を感じていますし、言葉はいらないんだなと思います。これカワイイ! と商品を買ってくれる彼女たちの世界に職人さんがいなくても、実際にその背景に多くの職人さんがいて、彼らの誇りにつながっている。その道筋が引けているのは本当にすごいなと思います。ファッションに関われて本当によかった」
「一流のブランド」を目指す山口が見据える次のステップは、欧米への進出だ。
「パリやアメリカで、ガチンコで勝負している日本ブランドってあまりないと思うのです。だから、私たちの世代でそういうブランドがあってもいいし、そのブランドが実はアジアのマイノリティの集団なんだと伝わったときに、世界がどうなるのかワクワクします」
山口はすでにパリでの出店を目指して動き出しており、昨年、パリに1ヵ月ほど滞在して現地を視察すると同時に、フランス語の勉強も始めているという。「面接だけは自分でやりたいから」と話す山口の瞳から、メラメラと燃える炎が見えるようだった。
山崎も、苦笑しながら背中を押す。
「パリで、短期間で成功しようと思ったら難しいでしょう。ある程度、赤字を出してもやり続けるという覚悟がないとできません。そのためには、日本の基盤をもう少し大きくしてからのほうがいいと思いますが、でもまあ、すぐにやりますよ。山口は欧米に店を出したくてうずうずしてるのだから(笑)」
会社の参謀が、計算や戦略を超えて山口の猪突猛進ぶりを受け入れ、むしろ楽しんでいる姿を見ていたら、ひとつのイメージが頭に浮かんだ。マザーハウスのロゴの「M」が染め抜かれた旗を掲げた山口が、馬を駆っている。そして、たくさんの仲間が山口の後を追っている。肌の色も服装もバラバラだが、共通しているのは、全員が笑顔だということ。
途上国のアウトサイダーズを率いるリーダーが目指すは、パリ。日本の次は、ファッションの都で旋風を巻き起こす。
=敬称略=
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら