普及開始の燃料電池で早くも撤退、体力勝負の様相に
今年5月から東京ガスなど都市ガス、LPG(液化石油ガス)メーカーが「エネファーム」の統一名称で家庭向けに燃料電池を使った発電・給湯装置の一般販売を開始。その供給メーカーとしてパナソニックなどとともに名乗りを上げていた荏原が5月25日、家庭用燃料電池事業から撤退すると発表し、業界関係者を驚かせた。
撤退理由は、世界同時不況による厳しい環境下で、大量生産やコストダウンに向けて、さらなる経営資源の投入が必要な同事業の継続は困難と判断したため。燃料電池の開発では“古参”とも言える同社の撤退は、次世代エネルギーという有望市場といえども、すでに体力勝負に突入したことをうかがわせる。
荏原は今回の撤退に伴い、燃料電池事業を手掛ける子会社、荏原バラードを解散する。同社は荏原が51%、カナダのバラード社が49%出資し、1998年に設立。バラード社は現在、家庭用燃料電池で商品化されている高分子型(PEFC)開発の先駆者で、自動車用の販売も行っている。バラード社の持つ世界トップクラスのPEFCの開発・製造技術と荏原のエンジニアリング技術を融合して生まれた荏原バラードは、2005年には定置式燃料電池スタック(発電セルを重ねた心臓部)を自社生産。国内で独占販売できるよう、同スタックの「ライセンス契約」を締結するなど、荏原とバラード社は関係を深めてきた。すなわち、10年来育て上げ、いよいよこれから花開くという矢先の撤退だったのだ。
もっとも、荏原はこれまで太陽光発電やマイクロガスタービンなど、環境分野で多くの新規事業に参入しては、事業化半ばで頓挫した経緯がある。前09年3月期は130億円を超える最終赤字に陥っており、本業に回帰し収益力を取り戻すことは最大かつ最優先課題。当面、年間数十億円の赤字が見込まれる燃料電池事業を継続できなくなったようだ。
さらに、競争相手はパナソニックや東芝など、資金力、ブランド力で同社をしのぐ巨大企業。正面から立ち向かうにはリスクが大きすぎると判断し、これから本格普及期を迎える燃料電池市場から、早々と退出を決めた可能性は十分ある。荏原は環境分野では風水力分野などに集中する見通しだ。