フランスワインの定着 その5:大衆化=販路の多様化《ワイン片手に経営論》第9回

■中世フランスの居酒屋「キャバレー」が消費層を拡大

よいキャバレーがある
男はなかに入り、食べ物を注文した
テーブルはすっかり整えられ、白いクロスがかけられている
そして、主人がすぐさま客に尋ねた
ワインはいかがですかと。。。
武勲詩「ボードゥワン・ド・スブール」(ロジェ・ディオン、『フランス・ワイン文化史全書 ブドウ畑とワインの歴史』、国書刊行会より)


 ムーラン・ルージュといえば、パリで今も有名なキャバレーです。「あー、ムーラン・ルージュこそが、この重たい本を放り投げ、我が骨を休めに行くべきところではないか」と思いながらも、ほのぼのとしたタッチでキャバレーの踊り子さんたちが描かれた絵になぜか癒され、モンマルトルの丘を目指して、再出発しました。間もなく丘の上に到着すると、最もにぎやかな広場には、無数の画家がイーゼルを立て、その上に自分の作品をおいて売る者、真っ白なキャンバスを載せて絵を描いている者、「あー、ここは芸術家の町パリなのだ」と実感した瞬間でした。

 先ほど静かな美術館の中でみたロートレックの踊り子の絵と、丘の上にひしめく芸術家たち。この静と動のコントラストが、ここに、歴史と、今でもその歴史を引き継ぎ、新たな芸術を創造している時代の動きとが在ることを、ひしひしと感じさせてくれたのでした。

 ところで、キャバレーには、どんな歴史があるのでしょうか。

 今の日本では、キャバレーという言葉はもはや“死語”となっていますが、その言葉から艶麗なお姉さま方々が、紳士(?)の横でお酒を片手に時に嬌声をあげながら談笑・接客する風景が浮かびます。ですが、キャバレーも歴史と共に変化しています。キャバレーとはフランス語で「居酒屋」という意味。発祥は16~17世紀ごろに遡り、先ほどの武勲詩にもありますが、今で言うところのレストランの雰囲気であったようです。

 居酒屋、レストランといったお店は、ワイン消費の広がりに重要な意味を持ちます。販路が拡大するということは、消費層も拡大していることを意味するからです。

 当時の都市におけるワインの販路は、ホテル、飲み屋(タヴェルヌ)、居酒屋(キャバレー)、仕出屋(トゥレトゥール)、レストランといったものです。このような販路は、中世以降、パリを中心とした都市の拡大とともに発達しました。都市の発達は、都市生活者だけではなく、旅行者の往来の増加にも起因しますので、必然的にワインの消費量も増えますし、国王や貴族だけでなく、より多くの民衆にもワインが飲まれるきっかけとなりました。
現在のムーラン・ルージュ
(Creative Commmons. Some Rights Reserved. Photo by Von Gomez)
 中世における飲み屋(タヴェルヌ)と居酒屋(キャバレー)の違いは、前者は料理を全く出さないが、後者はワインとともに食事も提供するということです。したがって、今回のコラムで艶麗なお姉さまのお話が読めると思った方は残念ながら、普通の居酒屋のお話ですのでご容赦ください。

 レストランという言葉は17世紀ごろに生まれた新しい言葉です。17世紀頃、ホテルの主人に加えてトゥレトゥールという結婚式の食事を準備して提供する商人たちがいました。彼らの仕事はワインの商人であるとともに、旅行客やホテルの宿泊者に毎日食事を提供することでした。その後、トゥレトゥールの仕事が一般化し、大都市で働く人たちの昼休みに食事を出すことも大きな役目となりました。更に、裕福な人たちに対して、お店を構えてゆったりとした食事を提供するトゥレトゥールが現れ始めました。こうしたお店を表す言葉の必要性から生まれた言葉が、レストランです。「レスト」というフランス語で「滞在」と言う意味の言葉と、「トゥレトゥール」という言葉が一緒になったのです。

 結局、このころは飲み屋、居酒屋、レストランの順番で高級になっていくイメージです。これだけお酒(ワイン)を出すお店が細分化されていったのも、都市国家発達のおかげです。

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