キヤノンの一眼レフで不良事故が多発する理由、製造請負依存の死角(下)
管理難しい業務請負 現場トラブルの温床に
大分キヤノン関係者であれば誰でも知っている07年10月のある“事件”は、製造現場の荒れ具合を示す象徴的なものと言えるだろう。
「なんしよん! はよ消さんかい!」
突如として作業場に響いたリーダーの怒号にSさん(09年1月まで勤務していた請負会社社員)が振り向くと、呆然と立ち尽くす作業者たちの群れの中心に、燃え広がる火の海があった。リーダーの声に作業者たちは我に返り、何人かが消火器を用いて消化剤を噴霧。鎮火したときには、作業台の上は5メートルほどにわたり、消火剤で真っ白になっていたという。消火剤は隣の請負会社のラインの内部にまで及んだ。
「これ、どういうことや」「ちょっと離れて!」。遅れて駆けつけた大分キヤノンの社員がテープを張り、現場を隔離し始める。ほかの請負会社の人間も持ち場を離れて集まり、周囲は騒然となった。製造は一時、完全にストップしたという。
事件は安岐事業所のカメラ組み立て工程で発生した。請負会社の作業者が火気厳禁の作業場でライターを使用したところ、揮発性の溶剤に引火。火は一気に燃え広がった。現場で働いていた請負会社社員は「カメラ外装のプラスチックのキズを隠すために、ライターであぶる方法が非公式に共有されていた」と語る。
この事件に関しキヤノンは「ボヤがあったことは認識している。請負会社の管理、指導が甘かったために起きた事件だ。ただ、こうしたことが起こったからといって、契約上キヤノン側がボディチェックを行ったり、持ち物検査をすることはできない。請負会社の自主的な管理に任せるほかはない」(広報部)と、業務請負契約に構造的に生じる管理の限界を認めている。
業務マニュアルもなし 現場では不良が多発
とはいえ、請負会社の側に、製品の品質を維持し高めていくような姿勢があれば、このような問題は起きないはずだ。なぜ、請負会社は、クリーンルームを汚れたままで放置し、火気厳禁の現場でライターを用いているのか。