米国の雇用拡大に向け、不良資産の購入が必要だ--ブラッド・デロング カリフォルニア大学バークレー校教授

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 こうした投資は魅力的な賭けである。ファンドマネジャーが利益を上げるかどうかは時間が経ってみないとわからない。しかし、投資家が利益を上げることができれば、政府はさらに大きな利益を手に入れることができる。運用資産の2%が年間の手数料である。投資家の多くは、ヘッジファンドにこの程度の手数料は進んで払っている。 

しかし、ガイトナー・プランが政府に利益をもたらす可能性があるということは副次的な問題である。このプランの狙いは、失業率を引き下げることにある。不良資産に対する5000億ドルの需要が登場することで、民間部門が保有しなければならない不良資産の量が減ることになる。資産購入に入札する政府支援のファンドが5~10程度登場することで、現在の環境の下で資産を評価するために使われているモデルに関する情報も市場にもたらされる。

情報の共有によって投資リスクは低下することになる。資産のリスクがそれほど高くないことがわかれば、資産の価格は上昇する。保有資産が減れば、さらに価格は上昇する。金融資産の価格が上昇すれば、普通の状況なら生産を拡大し、雇用を増やしているはずの企業が、妥当な条件で資金調達できるようになる。

問題は、ガイトナー・プランの規模が小さすぎることだ。必要額の8分の1から半分にすぎない。政府が財政刺激策や金融の量的緩和、他の救済ファンドの活用という政策を行ったとしても、決して十分ではない。

政府が本来行うべきすべてのことをやっていない理由は、ジョージ・ヴォイノビッチ上院議員の存在に象徴的に示されている。同議員は、上院で審議を打ち切り票決を行うという動議可決に必要な60票の最後の票を投じた人物である。法律を成立させるためには、法案を支持する59名の上院議員の票だけでは足りず、さらにヴォイノビッチ議員の票も必要だった。政府内の政策担当者たちは、特にAIGスキャンダル以降、政府は法案を成立させるために必要な議会の支持を得ていないと考えているようだ。

だがガイトナー・プランは新たに議会の承認を得なくても、すでに政府が持っている権限を行使することで実施できるのである。さらに拠出資金を増やすためには議会の協力が不可欠なのだが、今のところそうした協力を得られる見通しはない。

Brad Delong
1960年生まれ。ハーバード大学で経済学博士号を取得。93~95年に財務副次官補として93年度予算、GATTウルグアイ・ラウンド、医療制度改革に携わった。97年から現職。政治・経済のブログ「Grasping Reality with Both Hands」でも有名。

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