横浜傾きマンション、3社行政処分の重い意味 業界が抱える問題は山積している
「意図的にやられた流用や改ざんといった不正を見抜くことは、不可能に近い」と大手ゼネコン幹部は語る。だが、「下請けに裏切られた」では済まされない。「丸投げ」問題も含めて、施工管理上のグリップの甘さが問われているのだ。
今後、マンション住民の8割以上の合意を経て、三井不動産側が当初明言したように、傾斜していないものも含めて全棟建て替えとなった場合、その負担割合はどいうことになるのだろうか。
すでに傾斜しているマンションは建築基準法の許容範囲内とはいえ、三井住友建設の施工管理責任は明らかで、直接施工した旭化成建材も含め、その費用負担が発生すると思われる。しかし、全棟建て替えとなると話は違ってくる。「傾いてもいないマンションを立て替える必要はない。悪しき前例を作るべきではない」という建設業界関係者の声は多い。
「費用負担は割合で大半を三井不動産側が負担するのであれば全棟建て替えは可能かもしれない」(大手ゼネコン幹部)というが、その場合、転居・家賃負担など緒費用も含めれば、200億~300億円の負担が予想される。
ちなみに三井住友建設の2015年3月期連結決算の最終純利益は約70億円。これをベースに考えると、3~4期分の利益が吹っ飛ぶ計算だ。しかも、前期は1円とはいえ、ようやく復配にこぎつけたばかりだった。
株主からすれば、これから増配も期待できる環境の中、法的拘束力もない建て替え負担に応じるのは不当として「株主代表訴訟が起きる可能性は否定できない」(同ゼネコン幹部)。
業界が抱える問題は山積している
三井住友建設は、管理組合や三井不動産と対応策などについて協議を進め、「当局のご指導もいただき、必要な対策工事を含め、真摯・誠実に対応」していくとしているが、全棟建て替えはそう簡単ではなさそうだ。
12月25日、国交省の「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会」(委員長、深尾精一・首都大学東京名誉教授)の中間報告書が発表されたが、その中で「元請けと下請けの責任と役割の明確化」に加え、「重層構造の改善」が対策としてあげられた。
その一つとして「実質的に施工に携わらない企業の施工体制からの排除」がある。今回のケースでいえば、日立ハイテクノロジーズのような下請けは排除するべきとの方向性が打ち出された。
これに対して、「鉄骨、仮設材など資材調達の中でも、特に生コンでは販売代理店という商社機能をもった企業が介在したり、労務者の確保については下請けがかなり重層化して元請けが把握できていないケースもある」(ゼネコン幹部)という声も聞かれる。「重層構造の改革」は、かなり難しい課題になる。
さらに、元請けの施工管理体制を拡充するには、資格を持つ技術者を増やす必要があり、しかも下請けについても専任の技術者を置くことが事実上、義務づけられるとなるとコストアップは避けられない。人材の確保だけでも大変な業界だけに、「すぐには対応できない」(中堅ゼネコン幹部)との声があがっている。
建設業界が抱える課題は山積している。工事案件はあっても人が足りない中で、こうした改革をどう進めていくのか。横浜のマンション問題の最終決着はまだこれからだが、この問題が建設業界の構造改革を進める大きなきっかけになったことは確かだ。
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