『日本産業社会の「神話」』を書いた小池和男氏(法政大学名誉教授)に聞く


 また繊維産業の場合はもともと正規も非正規も変わらないところがあった。女子工員は早く辞めると会社は思っているから、正規で採る。女子工員は今の観念でいうと、正規でも非正規と言える。

--なぜ、こんなに「神話」が横行してしまっているのですか。

何か行動を決めるときに十二分な判断の材料がない場合、ある程度、競争相手と自分とを比較して決めるのはしょうがない。ところが、決める競争相手への認識が必ずしも正確でない。そうすると結果として双方にとって損になる。

それがいちばん難しいところであって、自然科学に比べて社会科学にはこれが十分な証拠ということはありえない。せめてどちらの考えのほうがよりいい証拠を持っているかとならなければだめなのに、そういう議論がなくて、だいたい日本は年功賃金とか日本は集団主義とか思い込みで決めてしまう。裏返してみて、よその国は激しい個人主義としてしまう。それでは日本のサラリーマンの方々は損ではないのか。

--この本で、誤解による損失を強調していますね。

それは誤解のコストが大きいから。彼我の状況を誤解すると、どのような損が職場で営々として働く人に生じるか。端的な例が、集団主義という「神話」。集団主義で個人間競争がなさすぎる、という誤解から個人間に差をつけよう、つけようとする。その結果、差をつけやすい短期にのみ目が行き、長期の人材形成がおろそかになってしまう。このようなことは、さらには政府の研究開発費への投入が過少になるなど、いろいろな面で起こっている。

こいけ・かずお
1932年生まれ。東京大学教養学部卒業、同大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学、法政大学、名古屋大学、京都大学、スタンフォード大学ビジネススクール、東海学園大学などを経る。『労働者の経営参加』(サントリー学芸賞)、『職場の労働組合と参加』(エコノミスト賞)ほか著書多数。


日本経済新聞出版社  1890円

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