卓也・有輝のコンビ、土佐兄弟をご存じだろうか。「高校生あるある」がTikTokでバズり一躍人気となった。兄・卓也さんは、教員免許を持ち教師を志したこともある人物。現在2人の子どもを育てる父でもあり、教育への関心がさらに高まっているというが、真にやりたいことを見つけ成功をつかむカギは何なのか。豊富な社会経験の中で出会った「デキる人」を振り返りつつ、今、子どもにとって本当に必要な教育を模索してもらった。

 

土佐兄弟「高校生あるある」の肝は役割分担

――兄・卓也さんについて教えてください!

土佐兄弟 :卓也・有輝の兄弟コンビ。バラエティー番組での漫才・コントをはじめ、「あるある土佐カンパニー」(テレビ朝日)、「土佐兄弟のCultureZ」(文化放送)に出演中。 TikTok、Instagram、YouTubeで配信している「高校生あるある」が「とても共感」「リアルすぎる」と視聴者から評価されており、人気動画は7億回以上再生されている

お気づきのとおり、僕は「高校生あるある」の動画に出ていません。「土佐兄弟」というコンビを世に広めることを考えたとき、弟が演じて僕が撮影するという役割分担がベストでした。動画の撮影後、音楽やテロップを入れて編集したり、動画をアップする時間を分析したりしていますが、その結果僕ら兄弟の名を多くの人に知ってもらえるようになったことはうれしいです。それと、土佐兄弟は本当の兄弟なので、僕には兄という役割があります。兄弟あるあるだと思うけど、「お兄ちゃんは責任感を持って優しく」「弟は自由奔放」とかざっくりした役割があって。だから、いざとなったら僕が出ていきます(笑)。

――独自の"役割分担”が土佐兄弟の強みと。ちなみに最近、卓也さんは「高校生なしなし」を演じていますね。

「有給を取りたがるやつ」「クラス替え初日に名刺を配るやつ」とかね(笑)。言ってみればこれも役割分担です。ニッチな人には、メインチャンネルの「あるある」に出ていない僕がサブチャンネルで「なしなし」をする面白さが伝わるかなって。でもこれが意外にみんな見てくれるんですよ。

先生の言葉は大人になっても忘れない

――卓也さんは、学校の先生を志していたんですか?

目立ちたがり屋だったので、人前に立つ仕事に就きたくて。中でも、あるテーマを通して自分の意見を伝えたかった。とか言ってますけど、実際は完全に「金八先生」や「GTO」、「伝説の教師」の影響ですね。生徒をいちばんに考える熱血先生を「まじでかっこいいな!」と思っていました。とくに「GTO」の反町ですよね……もう反町がかっこよすぎて(笑)。

――実際、教員免許も取得されていますよね。どんな先生を目指していたのでしょうか。

「学校めっちゃ楽しいぞ」「学校来いよ、楽しめよ」と伝えられる先生。人間性って、学校生活の数年間で形成されると思うんです。だから、生徒が自分の役割や得意分野に気づける環境をつくってあげたかったですね。例えば、文化祭の準備期間なら生徒と一緒にペンキまみれになりながら伝えたいと思っていました。

自分にとっての理想の教師像を語る卓也さん

――実際に印象に残っている先生はいますか?

高校のエピソードなんですが、僕の高校は住宅街にあったので、文化祭は何があっても19時には終えないといけなかった。それで僕、後夜祭のバンドで大トリだったんですよ。ステージに上がったのが18時50分。演奏中にふと時計見たら、なんと19時過ぎてて。「まずい」と思って近くの先生に声をかけると、「俺、時計持ってないからわかんないや」と言われたんです。

――粋ですね。

もしかしたら本当に時計を持っていなかっただけかもしれないけど、かっこよかったですね。先生の言葉って意外と覚えているもんで。逆に言えばショックな言葉も覚えてる。だから先生は適当なこと言えないなと思っていました。

――ショックな言葉を言われた経験が?

もう笑いのネタですけど、高校の時、自分の部活仲間が校舎裏で花火をしたんです。僕はそのとき教室で寝ていましたが(笑)、ふざけた仲間に「土佐もいました」と告げ口されて。早速呼び出され、結局は僕の弁明と周りの証言で誤解こそ解けたものの、「そういうときに名前が上がることが問題だ」と、部活をクビにされました。

改めて、学生時代の思い出を振り返る

――衝撃的な出来事ですね!

僕はお笑い芸人になるような人間だから当時も笑い話にしていましたが、普通に考えたら、なかなかですよね。この話はさすがに極端ですが、やっぱり先生に言われたことは大人になっても忘れない。先生にはそうした責任もあるのかなと思います。

「できる人」には「分析力」がある

――学校では「勉強できる人」が注目されますが、芸能界で「できる人」はどのような人ですか?

「自己分析と他己分析ができる人」ですね。周りを見て、自分に期待されている役割を理解できる人。うまく振る舞えるかはその日の調子次第ですが、芸能界を生き抜くために分析力は必須です。例えば、フットボールアワーの後藤さんがいる場で、「おい!」とツッコんでも絶対に勝てない(笑)。だから、自分だけでなく他人も分析し理解しておくことが大事です。

――「分析力」は社会で求められる能力ですね。会社員時代はどうでしたか?

会社でも、結局は「自己分析と他己分析」が必要だったと思います。保険会社の営業時代に憧れていた先輩は、保険の知識や資格ではなく、「お客様を楽しませる営業」で勝負していました。要はお笑い担当です。どんなルートでも契約を取れば勝ち。僕も、金融の知識で先輩に勝つのは難しいと判断し、「君が面白いから任せるよ」と言ってもらえる努力をしました。自分と他人を分析して、どうやったら勝てるか計算する意味で、芸能界と同じかもしれませんね。

――こうした「分析力」は学校では教わりませんよね?

問題はそこなんですよ。人間関係の中で自分の立ち位置をなんとなく意識もしますが、授業で学べるわけじゃない。それに、学生のうちはそれぞれの個性もまだ成長中だと思うんです。確立された個性がない中で、学校がそれを強いるわけにもいかない。

――学校で取り扱うには無理があるのでしょうか……。

手っ取り早いのは、社会に出た人の体験を聞くことですかね。何も社会の厳しさや勝ち抜き方を教える必要はなくて、例えば人気TikTokerやYouTuberがどういうふうに有名になったか、とか。それをきっかけに自分の強みを考えてみると、新たな発見があるんじゃないかな。

――卓也さんが教員になったら、どのような授業をしますか?

これ難しいですね(笑)。教育現場もそうとう苦労しているんだと思います。絞り出すなら、やはり「将来」よりも「今」をどう生きるか伝えたい。進学校では難しいかもしれないけど、今をより楽しく過ごすためにどう行動していけばいいか教えてあげたいです。

実際にどのような授業をすべきかは難しい課題だ

教科的な部分では、「学ぶ意味」にちゃんと言及したい。よく、「sin、cosって将来使わないじゃん」とか言いませんでした?(笑)。数学なら論理的思考力、現代文なら相手の心情を読み取る力など、それぞれ生活につながる部分もあるはずなのに、結構な人が学ぶ意義を見いだせていない。そこは解決してあげるべきかな。一応、大学の教職過程でもこうした内容を学ぶのですが、学生も単位のためにひたすら暗記しているだけだったり……。こうした点は、将来教員になる学生さんともぜひ話し合ってみたいです。

家庭教育と学校教育の連携が気になる

――現在の日本の教育において、気になる課題はありますか?

「先生と親との関係性」ですね。理想は、教師と親とで一緒に子どもを教育できる環境。そこで親としては、学校と家庭がどれほどフランクに連携できるのかが非常に気になります。正直、テストの点数はどうだってよくて、それ以上に友達や先生との関わり方が知りたい。できれば、学校側から教えてほしいなというのが本音です。その機会が年に数回の保護者面談だけなのか、ほかに方法があるのかについては、僕はもちろん、興味を持っている親は多いでしょう。とはいえ、1クラス40人もいますからね。先生の業務負担を考えるとめっちゃ大変だと思います……。

――学校の成績がわかればいいわけではないと。

学校に通わせる目的として、子どもの成績がどうなるかより、子どもの生き方や人間性がどうなるかを重視したい親は多いと思います。勉強はもちろん大事ですが、あくまで人間的に成長するための1手段に過ぎないのではないでしょうか。

――コロナ禍で学校行事は中止が相次ぎ、勉強だけになった学校も多いですね。

子どもの人間的な成長を考慮すると、学校行事ほど大事なものはないんじゃないでしょうか。僕ら土佐兄弟の元にも、「行事が中止になりました。土佐兄弟さん何とかしてください!」というDMがしょっちゅう来ます。学校側には、どうにかして行事を続けてほしいですね。僕らも、学校行事に参加できなかった子のためにイベントをどうにかして開きたいんです。

――実際に、Zoomで後夜祭イベントをされたとか。反響はいかがでしたか?

クイズ大会やミスターコンテスト、合唱をしました。ミスターコンテストは、弟が早着替えして1人5役に(笑)。僕らがゲストという設定で、漫才も披露しましたね。反響として多かったのは、「登校した気分になれた」という声です。朝からワクワク、ソワソワする感じだけでも味わってもらえたら最高。今後もこうしたイベントを続けたいですし、これで儲けるつもりもないので、ぶっちゃけ「高校生はタダでいいんじゃないの?」と思っています。いずれは体育館を貸し切ってリアルイベントをしたり、地域活性化を兼ねて遠方出張もしたい。僕らが漫才をすることで、少しでも多くのお客さんが来てくれれば万々歳。自治体や学校は僕らにどんどん声をかけてほしいです。

これから考えたい「学校」のこと

――今回さまざまな疑問や要望が挙がりましたが、教育に関して今後どのような人と議論をしてみたいですか?

「現職の先生」「学生さん」、そして「学校をやめた人」と話してみたいですね。

先生には、さっきの話のとおり教育現場と家庭の連携について聞きたい。逆に先生が困っていることも教えてもらって、その解決方法を学校の「外」の人間として考えてみたいです。

「学生さん」には、シンプルに「学校楽しいか?」って問いかけたいですね。学校生活で楽しいこと楽しくないこと、やりたいことやりたくないことなどリアルな意見を集めれば、ぶっちゃけ学校教育に不要なものも出てくるんじゃないかと思うんです。もしかしたらここに、先生方との齟齬(そご)もあるかもしれません。

最後に「学校をやめた人」ですが、やっぱり「何が嫌でやめちゃったのか」が気になります。それこそ、EXITのかねち(お笑い芸人・E X I Tの兼近大樹)は将来的に高校に通い直したいらしくて。どんな学校だったら通いたいか、今何を学びたいかをひもとけば、今の学校に必要なものも見えてくる気がします。

若者に伝えたいことは、「本当にやりたいことがあるなら、そちらに進むことも選択肢の1つ」ということ

――ちなみに、卓也さんが学校で「教えてほしかった」ことは何ですか?

強いて言えば、「大学進学だけがすべてじゃない」ということですね。今の人生に後悔はないですが、ふとした時に「もし、高校卒業後すぐにお笑い芸人になっていたら?」と考えることがあるんです。僕は大学生と社会人を経て25歳で芸人になりましたが正直、高校時代から自分はめっちゃ面白いと思っていて(笑)、周りにも芸人になることを勧められていたんです。18歳でこの道を選んでいたら、当時弟は小学生だから友達などとコンビを組んでいたでしょうし、また違う人生だっただろうな。

――なぜ大学へ進学したのですか?

高校が進学校で、大学進学は当然だと思っていました。また当時は、世の風潮的にも、夢に挑戦するには相当な覚悟を決めないといけない印象が強くて。夢を追うのは今以上に難しい空気でしたね。そこで誰か一人でも、たった1回でもいいから、先生の口から「いろいろな選択肢があるぞ」「大学が100%じゃないぞ」と言ってほしかったかもしれません。そうすれば、違う選択肢を取った生徒は多くいたと思うんです。実際、大学を中退して違う道に進んだ人は多い。僕らは大学進学がすべてではないことに後から気づいたので、今17歳18歳の子にはすぐにでも伝えてあげたいです。

――とはいっても、大学に進むことで新たな選択肢を得る人もいますよね。

はい、もちろん無責任な発言はできません。しかも、先生は全員大学を出ているという点も難しいんです。ただ、大学には何歳からでも入れますから、今本当にやりたいことがある人は先にそっちをやってもいいんじゃない?と思いますよ。

(企画・文:田堂友香子、撮影:今井康一)