「ビジュアルのわかりやすさ」と「理解度」は、比例する
――「おっぱっぴー小学校」、とても評判ですね。時計の読み方など、どの授業もわかりやすく面白いです。そもそも、なぜこのような取り組みを始められることに?
2016年からYouTube自体はやっていたのですが、新型コロナの影響でライブなどがなくなる中、子どもに向けて教育関連の動画をやってみては? という話をもらいました。教えることは以前から好きだったので、やってみようかなと。
授業内容は、作家さんと一緒に考えています。構成を考えるグループLINEがあって、そこにアイデアを出し合っていますね。作家さんが作った構成をベースに僕がネタをつけたり表現や順番を変えたり。間違った内容を教えないように、塾の方に監修として入ってもらい、アドバイスをいただいたりもしています。撮影まで多いときは、5、6回往復してブラッシュアップしていますね。
――小島さんならではの工夫は、どのあたりにあるのでしょう?
子どもは目から情報を得る部分が大きいと思うので、ビジュアルで脳にインプットできるように、というのは心がけていますね。脳に焼きつかせるイメージです。具体的には、わかりやすい動きをたくさんつける、とにかく見た目を派手にすること。
加えて、勉強嫌いの子は、概念を言葉で理解するのに苦労していると感じているので、「円周率は3.14」ということですら、とにかくビジュアルにしています。
動画の打ち合わせをする中で、授業が急にわからなくなって脱落してしまう「小5の壁」というのがあると聞きました。でも、僕はその壁をできるだけなくしたい。勉強ができる子は、どんどん自分で勉強を進めていけるので、勉強ができないと思っている子にこそ、途中でつまずかないように、なんとか勉強を嫌いにならないで、楽しく、好きになってもらえるように教えてあげたい。それは、つねに意識していることですね。
あとは、動画は約10分なので、詰め込みすぎない。もっとも一気に撮るので、僕の集中力が続くのがそれだけ、というのもありますが(笑)。
1人でもハイタッチ、「コール&レスポンス」で参加型に
――子ども向けライブも毎回大人気ですね。舞台での経験は授業に生かされているのでしょうか?
子ども向けのライブは、試行錯誤の末、参加型にしていました。どんなに渾身のネタを披露していても、一方的だと、会場を歩き回る子が必ず出てくるんですね。それはもう仕方ない(笑)。見続けてもらえる工夫をいろいろと試した結果、質問を挟んだりハイタッチをしたり、コール&レスポンスで参加してもらうと間も持つし、引きつけられるということがわかったんです。それでYouTubeの動画でも、あたかも目の前に子どもたちがいると思って、こちらは1人で意外と寂しいんですけど、ハイタッチの格好をしたり、呼びかけて返事を待ってみたり、ということをしていますね。
――なるほど。授業には、たくさん感想がきているそうですが、感想を次に生かしたりもしているそうですね。
YouTubeのコメントは、もう全部見ています! 「字が汚い」と書かれてからは、読みやすい字ということを意識して、ホワイトボードにきれいな字を書くようになりました。「授業はすごくいいけど乳首は見たくない」と親御さんからコメントがあったときには、すぐに服を着ましたね(笑)。これから先も絶対に、服は脱ぎません!
――(笑)。小島さん自身は、どんな小学生でしたか? 思い出に残っている授業はありますか?
授業には積極的に参加し、手を挙げて発言するタイプだったのですが、意外と覚えているのは、先生の雑談ですね。授業と関係ないことを覚えています。僕の授業は10分なので、なかなか脱線は難しいですが、例えば、この間やった分母と分子の授業では、「お母さん(分母)が子ども(分子)をおぶっているみたいだね。でも将来は君たちがお母さんをおぶってあげるんだよ」など、あえて想像しやすい話を挟むようにしました。
――いいお話ですね。今は「算数」がメインですが、これからやってみたい授業はありますか?
はい。「道徳」はやってみたいですね。僕は、『論語』や『菜根譚(さいこんたん)』、『五輪書』が好きなんです。『五輪書』に「敵になる」というお話があるのですが、簡単に説明すると、泥棒が入ってきたとき、泥棒こそ世間全員を怖がっているのだから恐れることはないという内容なんです。相手の気持ちになって考えてみることの大切さが説かれていて。そういった深く考えさせるようなもの、相手の立場を思いやる大切さなど、心の教育につながるようなものも教えてみたいですね。あとは、僕は稲盛和夫さんが好きで、『心。』(サンマーク出版)が愛読書。そうやって僕が影響を受けた方のお話も、授業にしてわかりやすく伝えられたらなぁと思っています。
正解は1つだけじゃないことを、伝え続けたい
――子どもたちに、そうした授業を通していちばん何を伝えたいですか?
勉強は楽しいんだよ、間違っても、何回やってもいいんだよということ。
僕も学生時代は詰め込んで、暗記して、○か×かで勉強してきたんです。たった1つの正解を求めてきた。でも人生の答えって1つじゃないですよね。実はいろいろなアプローチがあって、時には正解がないことだってある。結局いちばん大事なのは、唯一絶対の正解を求めることではなくて、トライをし続けることだと思うんです。
「そんなの関係ねぇ!」も、最初は全然ウケなくて、ネタを見せても見せても、オーディションに落ち続けていました。ずっと×だ、×だ、と言われてきたわけです。
それがある日突然、オセロのように、ひっくり返って○になった。昨日まで、ダメだと言われていたものが、超アリのアリになったんです。
そんな経験から、僕は間違いを間違いとだけ言ってバサッと切り捨てるのではなくて、「それは正解じゃないかも。でも、もしかしたら正解かもしれない。だからいったん別の考え方もしてみる?」みたいな声かけがいいなと、個人的にはそう思っています。
そもそも、正解がないことだってありますよね。バッサリ切るのは、エネルギーになる部分もあるけど、なるべくしたくないですね。
「4分の1」が正解だけど、「8分の2」を否定したくない
この間も、分数の問題を出して答えを募集したんです。「ピザを8等分にして、よしおが3枚、お兄ちゃんが2枚、弟が1枚に分けるよ。残りは何枚?」という問題です。算数の分数問題として答えると、正解は4分の1ですよね。でも8分の2、と回答していた子がいて。算数的には間違いですよね、8分の2。×をつけられる。
だけど、ふと思ったんです。ピザは実際2枚残っているんだから、8分の2なんじゃないか。8分の2のほうがいいかもしれない、って。算数的には×をもらうかもしれないし、先生には怒られてしまうかもしれないけれど、これはこれで合ってるよね、と。子どもの素直な気持ちに寄り添いたいなと思いました。
――子どもたちもそうして、一部分でも認めてもらえると、やる気が出そうですね。
そうだとうれしいですね! とにかく、「優しさ」と「元気」も伝えたいことなので。「わかりやすさ」を1番に置いていた時もあったんですけど、でも、それだけじゃダメだなと。学校でも塾でもない僕、よしお先生が伝えられること、いちばん大事にしないといけないのは、元気で楽しんで、笑うことだなと。
だから、動画を作りながら自分が楽しめているかも、気にしていますね。
子どもって影響を受けやすくて、その場の微妙な感情の揺れを、丸ごと受け取っている気がするんです。「難しい」という言葉も極力使わないように、「うん、簡単だね〜!」と、思いを込めるように伝えています。
以前やらせていただいた仕事に、幼稚園で、ピーマンの歌を歌ってピーマン嫌いが治るかという検証ロケがあったんです。ピーマンが嫌いだった30人の園児たち、何人が食べられるようになったと思います? なんと30人中29人が、本当に食べられるようになったんですよ! 僕、これ絶対“やらせ”なんじゃないかな、と思って。後でこっそり先生に聞いたんですよ。でも、やらせじゃなかった(笑)。そんな経験もあって、楽しい雰囲気で伝えると、子どもたちには素直に届くんだなと実感していて、そこには気をつけて授業していますね。
一日中、365日、子どもたちを見ている先生ってすごい!
――勉強嫌いという子が、よしお先生のファンになる理由がわかりました。最後に、見てくれている子どもたちや親御さん、先生に、メッセージはありますか?
デジタルって、リアルに接して生身で伝わっているものがあるからこそ、僕は生きるんじゃないかな、と思っているんです。リアルでしっかりスキンシップして、子どもたちを見ているからこそ、デジタルを味方にできて、伝えられる。デジタル化している今だからこそ、なおさらそう思います。
僕は、子ども向けのライブ30分でも、動画の10分でもすごく難しくて苦労しているんですね。
だから、一日中子どもたちを見ている先生は、本当にすごいなと思うし、ましてやいろいろな教科を教えていたりして、改めて尊敬の気持ちしかありません。今、先生たちもいろいろと大変だと思うのですが、体には気をつけて、何か自分の癒やされる時間も見つけて頑張っていただきたいと思います。
親御さんに、まず伝えたいことは、「僕はもう脱ぎません!」(笑)。かつてPTAから禁止されていたあの日の僕ではないんです……! これからもYouTubeで子どもたちに安心して見てもらえるコンテンツをじっくり作らせていただくので、安心して見せていただけたら。そして一緒に、勉強が好きで、優しい気持ちを持った子どもたちを育んでいきましょうね、ということですね!
最後に、子どもたちには、「見てくれてありがとう。お勉強したことを、お友達に教えてあげたら自分の勉強にもなるからやってみてね! 間違いを恐れずにどんどんチャレンジしようね」と伝えたいですね。これからも、みんなと会えることが楽しみです。