偏差値35から、いったい何をすれば東大に入れるのか

僕はもともと、高校3年生の時に受けた模試の偏差値が35だった人間です。そこから2浪した末、何とか東大に合格。その経験を生かして、「逆転合格」を目指す学生の支援を行っています。

そういう人間なので、頻繁にこのようなご質問をいただきます。

「偏差値が低い人間が、一発逆転で東大合格を目指すことは本当にできるのか。何を勉強すればいいのか」

「今、自分の偏差値は35です。そんな自分が東大に入るには、手始めに何からやればいいですか?」と。

この質問に対する僕の回答は、いつも同じです。

「『計算力』『漢字力』『英単語力』。学問の基本になる、この3つの能力を鍛えてください」

そう伝えると、「え? なんでそんな当たり前の能力を?」「計算なんて誰だってできるし、漢字だってある程度はわかるよ……」と困惑する方も多いのです。しかしながら実は、この超基本とも思える「3つの力」をしっかりと身に付けることこそが、東大合格の「基盤」になり「近道」にもなるのです。

「512」という数を見て、何を思い浮かべるか?

どうしてこの「3つの基礎力」が大切なのか、1つずつ見ていきましょう。

まずは、「計算力」。要は「四則演算(足し算、引き算、掛け算、割り算)を、速く正確にこなす力」のことです。東大入試と四則演算、一見遠い気がしますよね。「足し算引き算なんて小学校1年生で習うもの」といって、あまり重視していない人も多いでしょう。

しかし、これ、めちゃくちゃ大事です。もう一度言います。大事です。

正直な話、数学ができないと嘆いている学生の大半は、計算が遅くて計算ミスも多く、計算過程や考え方は合っているにもかかわらず、最終的に×になって点数が取れていない場合が非常に多い。そして、自分は数学ができないんだ、苦手なんだと思い込んでしまっているのです。そういう生徒は非常に多いと断言してもいいくらいです。

ところで皆さん、東大入試の数学試験で、四則演算をやる回数が何回くらいか知っていますか? ざっと確認したところ、文系でも100分の試験時間で700回、理系なら150分の試験時間で1500回以上は行う必要があります。すごい回数ですよね。

そこで一回でも間違えれば、もちろん点数は取れません。さらに計算スピードが遅ければ、そもそも問題を考える時間すらなくなるでしょう。だからこそ「計算力」は大事なのです。

そして計算はやればやるほど、数への理解力が高まるという側面があります。

皆さんは、例えば「512」という数を見て、何を思い浮かべますか? 「ごひゃくじゅうに」、それとも「こいつ……?」

「あ! これは2の9乗という、すごく特別な数だ!」と考えられるでしょうか?

僕は最初、数をそのように見ることができませんでした。でも、「計算力」を上げようと訓練していくうちに、自然とそれができるようになり、数学の問題で「512」という数を見ると、条件反射で「これってもしかして、2の9乗なのがヒントなのかな?」と考える癖がつきました。そして東大入試の数学試験でも、こうした「数」がヒントになっていることも多くあります。「512」という特殊な数字を入れたんだから、ここから考えればいいんだよ、というヒントを提示されているようなものなのに、それに気づかずに解けていない生徒はかなり多いのです。

このように、「計算力」は数学を勉強するうえで欠かせない、超重要かつ必須の能力と言えます。

「漢字力」=「語彙力」であり、どの勉強よりも優先すべき

次に、「漢字力」です。「漢字なんて、覚えるだけじゃないの?」と考える人も多いと思うのですが、決してそんなことはありません。「漢字力」というのは、そのまま「語彙力」と言い換えることができるからです。

例えば皆さんは、「絶巧」という言葉の意味を知っていますか? この言葉はあまり目にすることのない珍しい言葉ですが、おそらくこれを読んでいる皆さんであれば意味がわかるでしょう。

なぜか。それは、絶は「絶対」、巧は「巧妙」という具合に、その漢字自体が、どのような熟語になり、どのような意味を持つ漢字なのかを理解しているはずだからです。

「『絶対』的に『巧妙』ってことは、まあ、並外れて優秀で巧妙ってこと?」というように、おおよその意味を類推して理解できるのではないでしょうか。

「漢字力」を身に付けて、多くの漢字の意味をわかってさえいれば、たとえ文章中に見慣れない難しい言葉が現れたとしても、大体意味を把握することができます。逆に、漢字がわかっていない状態で国語の文章を読んでも意味が理解できないでしょう。それどころか、理科や社会、それ以外の科目であっても、漢字の意味がわかっていなければ、教科書の内容も問題の意味も理解することができません。

そう考えると、「漢字力」は、語彙力を高めて文章を読み解く能力を高めてくれるという点で、ほかのどの勉強よりも優先して勉強するべき最重要の項目だと思いませんか。

英語の長文が読めないのは、「英単語力」が原因の9割

最後に「英単語力」です。皆さんは、まったく意味がわからない言語の勉強はできますか? おそらくそんなことは誰にも不可能ですよね。

しかし受験英語では、英単語の勉強がおろそかなまま、文法や長文の問題を解こうとして、失敗してしまう人が非常に多いです。はっきり言って、「英語の長文が読めない!」と悩んでいる学生の9割は「英単語力が不足している人」です。

その証拠に、そう悩んでいる学生に「Google翻訳を使っていいから、もう1回文章を読んでみて!」と言うと、途端に「あれ! わかった!」と言い出すのです。問題は、文法力でも、長文読解力でもありません。単に「英単語力」が不足していたということです。

ですから、まず真っ先にしなくてはいけないのは、文法でも長文読解でもなく、英単語の勉強なのです。さらに、英単語を勉強することは、先ほどの「漢字力」や語彙力を身に付けることにもつながります。

例えば皆さんは、「order」という英単語の意味を知っていますか? これは「順序」とか「秩序」とか、そういったことを意味する英単語です。「序」という漢字が共通しています。そうすると、逆に「序」という漢字は、物事が順番にそろっていて、あるべき状態に並んでいることを示しているのではないか、そしてそれが「order」なのではないかと推測することができます。こうやって、日本語と英語の語彙を同時に、そして相互に増やしていくことで、どんな科目でも使える読解力が身につくのです。

ところで、「order」という英単語、僕らは日常生活の中でいつも使っていますよね?

「注文をお願いします!」と言うのを、「オーダーをお願いします!」と言うことってありますよね。なんで「順序」という意味と「注文」という意味が同じ英単語で表されているのでしょう?

そのからくりは、「序」という漢字が「あるべき姿」だと知っていればわかります。客という立場の人が、従業員という立場の人に何かを頼む行為。これは、「順序」が保たれている状態だと解釈することができます。

このように、新しい英単語や新しい言葉に触れるたびに、「もしかして、これってこういうことなのかな?」と考える癖をつけると、今まで勉強したことと、新しく学んだことがつながる瞬間があります。そしてその瞬間の「わかった!」という感覚こそが、勉強の楽しさにつながるのです。

そして「今までの勉強と、新しく学んだことをつなげる」ために必要なことこそが、「3つの基礎力」を鍛えることなのです。

この「3つの基礎力」の大切さはわかってもらえましたでしょうか?

僕は、この「3つの基礎力」は、大学受験の直前ではなく、小学校・中学校の段階から、どんどん身に付けていくべきだと考えています。そうすることで、高校に上がってからも成績を上げ続けることができ、勉強を楽しむ能力が身に付くからです。

「make10」「和同開珎」楽しんで基礎力を鍛える

ここからはより具体的に、「3つの基礎力」の鍛え方についてお話しします。

まず、「計算力」。「計算力」については「計算のゲーム」をしてみるのがおすすめです。
例えば「make10」というゲームは、どうでしょうか。

4つの数字を使って、自由に四則演算して10という答えを作るというゲームです。

例えば1、2、3、4なら、(4×3−2)×1で10となります。

東大生の多くは、さまざまな場所でこのゲームをプレーすることが習慣化していたといいます。切符の日付が10月27日なら1027で、時計を見て24分35秒なら2435でといった具合に、いろいろな場所、いろいろな数字で「make10」をやっていたそうです。

こういう積み重ねで「計算力」の訓練をすると、どんどん計算スピードが速くなっていきます。

サイコロゲームの「ヨット」もおすすめです。これは、プレーヤーが5つのサイコロを振り、その出た目でポーカーのように役を作り、役に割り当てられた点数を加算していくゲーム。最終的に点数を高く積み上げた人が勝ちというものです。詳しいルールは、インターネットで調べてみてくださいね。小学生以下の子でもはまりやすく、ゲームの最中に何度も何度も計算を求められるので「計算力」が身に付きます。

「make10」ゲームと「ヨット」ゲーム。子どもにもできる計算力アップの方法として、自信をもってこの2つをおすすめします。

また、「漢字力」については、「和同開珎」と呼ばれる漢字パズルがおすすめです。

これは、図のように4つの漢字を見せて、真ん中の空欄に入る漢字1文字を考えさせ、熟語を4つ作るという漢字パズルです。東大合格者が多い灘中学でも入試問題に採用しています。

この勉強法の特長は、先ほど説明した「熟語のつながり」「この漢字はこういう漢字と組み合わされるんだ!」ということが、ビジュアルで理解しやすくなるということでしょう。この問題を何度も解いているうちに、漢字同士のつながりや熟語の意味を深く考える習慣が身に付き、「漢字力」、すなわち語彙力もアップすると思います。

最後に「英単語力」です。これは、「語源」を理解していくのがおすすめです。

例えば「act」には「行う」という意味があります。この1つの意味を覚えておけば「action」や「actor」など、そこから派生した、いろいろな英単語とつながっていきます。こうしたつながりを理解するのに役立つのが「語源」であり、いろんな英単語の大本として英単語を覚える手掛かりになります。

こうした語源を勉強する本というのは最近増えていますが、僕が使っていたのは『鉄緑会東大英単語熟語 鉄壁』(鉄緑会英語科 編)と呼ばれる単語帳です。これは分厚い単語帳なのですが、先ほどの語源や、その英単語のイメージがイラスト化されて載っている優れものです。

中学生のうちからでも、この単語帳を「辞書の代わり」として使って勉強することで、高校生になってからの勉強にも大きく役立ちます。

東大合格を現実にする、超意外な「3つの力」。いかがでしたでしょうか? 月並みな言い方になりますが、何事においても基礎を徹底することは非常に大切です。スポーツでいえば走り込み、ピアノであれば運指の練習でしょうか。

勉強における基礎こそ、「計算力」「漢字力」「英単語力」。この3つの力を高めることで、成績が上がるだけでなく、勉強の楽しさも理解できるようになります。学生さんはもちろん、先生方や保護者の方も、ぜひ参考にしてみてくださいね。

西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、オリジナルの勉強法を開発。崖っぷちの状況で開発した「思考法」「読書術」「作文術」で偏差値70、東大模試で全国4位になり、2浪の末、東大合格を果たす。そのノウハウを全国の学生や学校の教師たちに伝えるため、2020年に株式会社「カルペ・ディエム」を設立。全国6つの高校で高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。また、YouTubeチャンネル「スマホ学園」を運営、約7000人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。
著書『東大読書』『東大作文』(いずれも東洋経済新報社)はシリーズ累計38万部のベストセラー。近著『東大思考』(東洋経済新報社)も発売1カ月で10万部を達成するなど、早くもベストセラーとなっている。
(撮影:尾形文繁)

(注記のない写真はアマナイメージズ)