顧問の「強制なし」、引き受ける場合は「対価あり」

まず、米国の学校運動部の特徴を見てみよう。日本と大きく異なるのが、シーズン制とトライアウト制を敷いている点である。

シーズン制であることで、例えば、一人の生徒が春に陸上部、秋にアメリカンフットボール部、冬にバスケットボール部といった形で活動できる。また、多くの集団種目ではシーズン前にトライアウト(入部テスト)を行い、出場登録数を目安に入部人数を絞る。運動能力の高い生徒が複数種目で活躍できる一方で、どの集団種目のトライアウトにも合格できない生徒もいる。運動部活動は中学校よりも高校のほうが盛んだ。

(写真:ひろえもん/PIXTA)

では、これを指導する教員の負担はどうなっているのだろうか。一例を紹介したい。メリーランド州モンゴメリー郡学区では、各運動部の指導者がするべき仕事と必要な時間数が定められており、その内容は「職務記述書」というものに明記されている。

この学区の運動部活動のうち最も仕事量が多いのは高校アメリカンフットボール部の指導者だ。職務記述書では、8月中旬から11月初めの活動期間に練習の指導や試合の引率などで399時間の労働が求められている。1カ月に約100時間というのは、日本の運動部活動の指導と比較しても長時間労働といえるかもしれない。

ただし、先に述べたように米国の運動部活動はシーズン制であるため、教員の運動部指導の負担は限定的であるといえる。さらに、この学区で運動部活動、課外活動を指導する教員には、時給15ドル(約1700円)が支払われている。

米国の教員はホワイトカラーエグゼンプション扱いであり、どのような残業に対しても、必ず残業代が支払われるわけではない。しかし、多くの州において雇用主である学区との教員団体協約、労使契約によって、運動部を含む課外活動指導に報酬が支払われている。米国には約1万4000もの学区があり、運動部指導に対する報酬には、ほかの学区よりも魅力的な労働条件や報酬をオファーし、よりよい教員を雇用したいという労働市場の原理も働いている。

そして、運動部指導を担当する教員の負担における日米の最も大きな違いは、米国では日本のような「全員顧問制」を敷いていない点だろう。米国でも、過去の判例から、課外活動の指導は教員の仕事と見なされている。しかし、管理職が教員に対して課外活動指導を割り当てられるのは、教員の専門性や興味関心のある活動であること、妥当な指導時間であることが条件付けられている。教員の専門とまったく関係がなく、興味もないのに、長時間の運動部指導を無理に押し付けることは現代では難しい。雇用時の契約に盛り込まれていない限り、米国ではやりたくない教員は運動部指導を引き受けていない。

また、米国では運動部指導を引き受けている教員には、前述のように時給15ドル程度であっても対価を支払い、引き受ける教員とそうでない教員の公平さを図っている。これに対し、日本では「全員顧問制」によって仕事量の公平さを図っているように見受けられる。

日本にはない「アスレチックディレクター」とは?

では、指導を希望する教員が少ない場合はどのように対処しているのだろうか。米国の学校運動部も1970年ごろまでは、運動部の指導者は教員でなければいけないという規則を設けている州が多かった。しかし、教員のライフスタイルや意識の変化、女子の運動部の増加によって、指導者不足となった。そこで、学校外から指導者を募るようになったのだ。外部からの指導者は、技術指導だけを担当するのではなく、コーチとして雇用されれば、対外試合の引率など教員の運動部指導者と同じ仕事を担う。

学校外から指導者を雇用するに当たっては、適任者であるかを見極めるため、州の教育に関する法に従って、各州の高校体育協会が外部からの指導者について資格を定めている。全米スポーツ・体育協会(National Association for Sport and Physical Education)(※)の2008年の調査によると、全体の約4割の州で、指導者に教員免許を求めている。米国の学校運動部でも、競技指導に長けていることよりも、教育者としての資質が優先されているといえるだろう。
※現在は、体育や健康に関する全米基準策定などを行う米国の非営利組織であるSociety of Health and Physical Educators(保健体育教育者協会)に統合

しかし、教員免許を条件にすると応募者が限られ、指導者不足を補えないという現実があり、定められた指導者資格を持っていれば、教員免許の代わりと認めるなど条件を緩和している州も少なくない。

実際に外部からの指導者の採用を決める手続きはどうなっているのか。この重要な仕事を担っているのが「アスレチックディレクター」である。学校の運動部全体をマネジメントする役職だ。校長下の管理職であり、筆者が取材した学校では副校長や体育科主任と兼任しているところがあった。

州の高校体育協会の規則を理解し、競技全般に関する知識を持っている彼・彼女らが、校長と外部からの指導者採用を決めている。また、各運動部が適切に運営されているかもモニターし、学校運動部の理念に反する不適切な指導があった場合には、教員であれ、外部からの指導者であれ、運動部指導から外す権限も持つ。つまり運動部指導の人事を担っているといえる。

日本に求められる「公平に報いるシステムと運営管理」

日本では教員の部活動の負担を軽減するために、外部からの指導者を迎えること、民間業者に委託すること、地域に移行するという3つの策で対応を試みている。教員以外の人物が指導を担うことは時代の要請であるだろうし、指導者資格についても整備が進められているように見受ける。指導を受ける生徒にとっても、学校運動部という1つの集団に縛られることが減り、教員以外の信頼できる大人と接することで視野が広がるという効果もあるのではないか。

しかし、これら複数の策を実行するとなると、これまでよりも運動部の運営やマネジメントが複雑になるだろう。前述したように、米国では、アスレチックディレクターが外部へ応募をかけて適任者を採用しているが、この作業だけでも簡単ではない。

日本では、これに加えて民間委託や地域への移行、地域との連携も進める方針だ。平日だけ運動部指導に関わりたい教員、週休日も運動部指導を希望する教員の配置、地域移行や連携のために必要な規則作りなど、部活動改革に伴いマネジメント業務は増える。けれども、日本には、米国のアスレチックディレクターのようなポジションはない。これまで無理を強いられて運動部指導をしていた教員の負担は減るだろうが、新たに増えるマネジメント業務を無償で引き受けなければいけない学校の管理職や地域活動の代表者が出てくるのではないだろうか。

谷口輝世子(たにぐち・きよこ)
スポーツライター
スポーツ紙で日本のプロ野球を担当。1998年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を伝えている。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか』(生活書院)、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)、共著『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)など。Twitterは@zankatei
(写真:本人提供)

また、民間委託や地域移行、地域との連携については、学校運動部、民間、地域、家庭の守備範囲をわかりやすくするべきだと思う。子どもたちのオーバーユースや燃え尽きを防ぐ必要があるからだ。

スポーツ庁は2018年に「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を作り、スポーツ医科学の観点も踏まえて、週2日以上の休養日の設定、平日は1日2時間程度の活動、学校の休業日は1日3時間程度の活動を推奨している。学校と地域との連携でも、このガイドラインに沿った活動量であるべきだろう。

しかし、ガイドラインから逃れて運動部活動をする「闇部活」を防ぎながら、地域と連携することは意外と難しいかもしれない。とくに学校と地域の民間業者が連携して運動部活動を行う場合である。文部科学省や学校が「平日に学習塾で子どもが勉強できるのは2時間まで」などと強制できないように、民間が担う運動部の活動内容に学校がとやかく言うことはできないかもしれない。過度な介入は、民業を圧迫するだけでなく、子どもの自由時間の使い方を校則で縛ることにもなる。

また、学校運動部を地域移行するなどして縮小した場合、学校外でのスポーツ活動と掛け持ちする子どもが増えることも予想される。シーズン制を敷く米国でも、オフシーズンに学校外のチームにも所属していることでスポーツ活動に時間を割きすぎているケースがあるため、日本も子どもの活動量をしっかり見守りたい。そこは保護者の仕事になってくるだろう。活動量だけではなく、地域部活動の指導者の不適切な言動があった場合には、誰が窓口となってその調査や改善に当たるのかも、保護者と子どもは知っている必要がある。

こういったことから、地域との連携においては、学校と地域や民間の守備範囲を保護者にもわかりやすく周知されるべきだろう。

これからは、日本でも、教員以外の大人が運動部指導に関わることになるため、学校運動部の理念を各学校で改めてはっきりさせて共有する必要がある。そして、部活動指導を引き受ける教員とそうでない教員、また、教員と外部からの指導者の働きに対し、公平に報いるシステムづくりと、その運営管理が求められるのではないだろうか。

(注記のない写真:m.Taira/PIXTA)