「数学はもっと面白いことを教えられる」、学びの本質に迫る塾

古川 昭夫(ふるかわ・あきお)
SEG代表、数学科/英語多読科総括責任者
算数オリンピック副委員長、SSS英語多読研究会理事長、Z会顧問
元河合塾数学科講師、元駿台予備学校数学科講師
『多読多聴マガジン』(コスモピア)執筆者、『月刊 大学への数学』(東京出版)元執筆者

SEGの設立は1981年。代表の古川昭夫氏が東京大学理学部数学科を卒業後、東京都立大学大学院理学研究科在学中に学部時代の同級生に声をかけて発足した。

「当時、中高一貫生向けの英語の塾はあるのに数学を専門に教える塾がないことに気がつきました。予備校はどこも教科書に載っているような問題を繰り返し解かせることしかしておらず、『もっと面白いことを教えられるのに』と感じたのが、SEGを設立したきっかけです」

SEGへの入塾は中学1年生からが最も多く、次いで高校1年生での入塾が多い。本格的な受験期までの期間を、受験のテクニックではなく「学びの本質的な面白さ」に気づくための期間として考えており、公式を詰め込んで問題を解かせるようなことはしないという。

(写真:東洋経済撮影)

「学校の数学ではさまざまな公式を教え、塾も公式の使い方を教えますが、本当に理解すべきは公式の“導き方”です。『原理』とも表現できますが、『なぜそうなるのか』を理解していれば、公式を完全に覚えていなくても答えを導き出すことができます」

中学校の数学で、負(マイナス)の数同士を掛けるとなぜ正の数になるのか悩んだ経験はないだろうか。「そういうものだ」と言い聞かせて、パターンを頭にたたき込んだ人もいるかもしれない。だが、古川氏の手にかかれば「掛け算はすべて“比例”で表せる。例えば『1時間に2ずつ増える』という規則性があるなら2時間後には4増え、3時間後には6増える。反対に、1時間前には2減っているはず。また、1時間に2ずつ減るという規則性を持つケースならば、1時間前には2多く、2時間前には4多いはず。これが“負の数同士をかける”ことの原理です」と説明する。

「学校では公立私立や国内外に限らず、一通りの解き方しか正解と認めないケースが多々あります。教員のほうも、自分が教えたとおりの解答でないと、それが正しいかどうか判断ができないのです。しかし、ある説明で納得できない生徒に何度同じ説明をしても意味がありません。教員の役割は、ここで別の方法で教えてあげることです。しかし現在の学校では、教員は授業の上手さより、管理職からの受けや部活動に熱心に取り組むかどうかで評価されがち。それどころか、ほかの教員から『先生だけ高度な授業をされると困る、足並みをそろえてくれ』と言われる始末。これでは思考力は養われません」

なぜそうなるのかを徹底して考え、納得することで、真の意味での理解に到達する。SEGでは反復による「定着」ではなく「理解」を促進し、その知識を基にさまざまな問題への応用力を磨いていく。

「面白い」から学びにハマる、宿題は1時間で終わる量で十分

SEGは、英語、数学(高校2年、3年)、物理、化学で理解度・進度別に3~4レベル、中学生~高校1年生までの数学で2レベルに分かれ、それぞれのレベルに応じた授業が展開されている。実際の授業内容はどのようなものなのか。

「教える内容はどのクラスも同じで、進度も標準的な中高一貫校と同程度です。全科目でオリジナルの教材を使用していますが、毎年の傾向から『つまずく人が多い』テーマや問題にフォーカスした内容になっています。クラスによって変えるのは、教え方やこなす問題の数。レベルが高いクラスは速く問題を解けるので、チャレンジする問題数が多くなります。反対に、基礎クラスでは理解を促すために教え方のアプローチを複数用意するなど、ここに時間をかけるイメージです。いずれも、学校での知識を前提とせず“白紙”の状態から教えるので、授業をきちんと聞けば理解できる内容になっています」

例えば「確率」の単元の導入では、生徒たちに実際にサイコロを振ってもらうところからスタートするという。受験に特化した塾では考えにくいかもしれないが、「数学は本来、自然科学であるはず」と語る古川氏の下、SEGの生徒たちはこうした授業を楽しみながら考える力をつけていく。塾内では、数学が好きな生徒と苦手な生徒が半々くらいだと言うが、SEGで数学の面白さに目覚め、めきめきと成績を伸ばした生徒も多い。

さらにSEGの特色として聞かれるのが「宿題が少ない」という点だ。古川氏によれば、毎回の宿題の量は中学生なら30分から長くても1時間、高校生でも1時間余りで終えられる量にとどまるという。

「いちばんの理由は、学校生活を楽しんでもらいたいからですね。宿題に追われて部活も遊びもできないような学生生活は、将来のためになりません。自由な時間を過ごしてほしいし、正直、『少しだけなんだからちゃんとやってきなさいよ』という気持ちもあります(笑)。宿題は授業内容の定着を図るものなので、きちんと聞いて理解できていれば解けるし、たくさんやる必要はないと思っています」

面白いから読み続けたくなる、約55万冊の洋書で「英語多読」

さらにSEGの特徴的な授業として知られるのが、「英語多読」。ネイティブを中心とする外国人講師によるオールイングリッシュの会話・文法の授業と日本人講師による丁寧な読書指導で、ひたすらに英語の本を読む授業だ。

英語に慣れていない生徒は、幼児向けの絵本からスタート。徐々に受講生の興味や関心に応じた本を選び、高校2年生の頃には3万語を超す本を読めるようになる生徒も多いという。とはいえ、英語の本を読んでいるだけで受験に太刀打ちできるのだろうか。

「進学実績をみると、英語がネックになってしまったという生徒はいませんね。というのも、インプット量が通常の英語の授業よりはるかに多いためです。一般的な予備校の授業で読む英語は多くても300語程度。対して、本を1時間読めば何千語という英語に触れられます。さらに、人気の海外小説や、生徒自身が興味のある分野の本は受験用のテキストよりも魅力的で興味を引かれますから、どんどん読めてさらに力がつくんです。多読によって高校2年生までに十分な力を養える生徒がほとんどなので、高校3年生では理系科目の強化に集中できる点もメリットです」

SEGには四方を英語の本で囲まれた教室が29部屋もあり、ハリーポッターなどの名作はもちろん、話題のビジネス書やライトノベルなどその分野は非常に幅広い。生徒の要望を受けたり、各生徒の興味に合いそうなものを適宜追加したりして、本の総数は何と現在55万冊を超えるほどになるという。中にはすでに絶版になった貴重な本もある。

「英語多読で学んだ生徒が伸びるのは、文法や読解などの『難しいこと』を教えないからです。多読を通して自分がわかる英文にできるだけ多く接することで、単に受験のためだけではない、その後の人生でも使い続けられる英語を習得できるというわけです」

英語の文法は、中学1年生や中学2年生を対象にした「TPRS」と呼ばれる手法でオールイングリッシュで楽しみながら学ぶ。1枚のイラストから「この猫の名前は何にしよう?」「彼は何を欲しがっていることにする?」「どこに行こうとしていると思う?」といった答えのない設問に英語で自由に答えながらクラスでオリジナルの物語を英語で作っていく。出来上がったストーリーを通じて、文法やフレーズを学ぶのだ。

古川氏は、SEGで学ぶ生徒たちに得てほしいこととして「新しいことにチャレンジするのを楽しむこと、一人でも楽しめること、みんなと一緒に楽しめること。そして新しいことにチャレンジできる力をつけること、一人でも生きていく力をつけること、みんなと協調して生きていく力をつけること」とメッセージを送っている。

「世の中は新しい発見がないと進歩しません。社会に出て、自分にとって未知のものにチャレンジしてほしい。新しいものをつくり、世の中を変えてほしいのです。そのためには個人としての能力も必要だし、ほかの人とともに物事を進める協調性も必要。SEGで学んだことを生かして、困難に立ち向かう力をつけてもらいたいですね」

SEGの教育の本質は、理系科目の「原理の理解」や英語多読の「使える英語」のように、生徒自身が受験を終えた後の人生をより豊かに過ごすための学びを提供している点にありそうだ。

(文:藤堂真衣、編集部 田堂友香子、注記のない写真:尾形文繁撮影)