なかなか難しいID・パスワードの運用、管理体制

GIGAスクール構想によって、児童生徒一人ひとりに端末が配布され、それぞれにアカウントが付与されました。

IDやパスワード管理が重要であることは、先生も学校も理解しています。ただし実際の運用、管理体制となると、なかなか難しいようです。アカウント管理について学校全体の共通認識になっていなかったり、管理体制を構築する時間がなかったり、あるいは自治体や教育委員会と学校現場の間でうまく連携が取れなかったりして、結果的にできていないところが多いことも事実です。

では、どうしたらいいのか。

最初に出る案として、情報セキュリティーについて専門家からアドバイスをもらう、研修を受けるといったことがあるでしょう。

しかし、現場にそんな時間がないという声も聞こえてきそうです。そこでまずは、実態がどうであれ先生は「アカウントやパスワードはとても大事なもので、誰かに教えてはいけない」と最低限の知識を教えていただきたいと思います。端末を使う授業のたびに、「アカウントはただの番号や名前じゃないんだよ、アカウントからそれぞれの情報に結び付いているんだよ」と、そしてパスワードはそうした情報を守るためのものなんだと、繰り返し子どもたちに話していただけたらと思います。

子どもたちは、先生の行動や発言をよく見ています。例えば、先生がパスワードを付箋に書いて端末に貼るということをしていた場合、それを見た子どもは「パスワードって大事なものではないんだな」と感じます。すでに家庭内で教育をされていてリテラシーが高い子どもは、「この先生は管理がずさんだな」と思います。

数年前には、中学生が先生のパソコンに触り不正アクセスをしたという事件がありました。これは中学生だけでなく小学生でも十分に起こりうることです。思っている以上にパソコンに詳しい子どもがいるということを踏まえて、対応していただきたいと思います。

私は公教育の現場でもお話を聞くことが多く、先生方が大変な努力をしていることも見てきました。組織的にしっかりとID・パスワード管理の体制を構築していただきたいのですが、すぐに実現が難しいところも多いでしょう。

だから、まず先生一人ひとりが生徒のIDやパスワードをしっかり管理する。子どもたちにはアカウントやパスワードの意味を教え、その重要性を日常的に教えていただきたいなと思っています。

「ネットいじめ」と「リアルいじめ」は地続き

端末配布に当たっては、ネットいじめの問題は当初から危惧されていたものです。

ネット上でのいじめは、例えば、チャットのやり取りで「バカ」と冗談半分で言ったり、ふざけて友達の写真をアップしたりと、実は最初のきっかけは「されたほうもいじめとは思っていない」ことも多くあります。ところがチャットや掲示板で、それを見た別の誰かが乗っかってきて一気にエスカレートし、いつの間にか「誰かを誹謗中傷する」ケースというのもありがちです。

私は、「すべてのツールを禁止するよりも、まずは使ってみること。使って失敗を学ぶこと」が大事だと思っています。SNSにせよチャットにせよ、コミュニケーションツールの1つです。道具である以上は、「ケガをしたら大変だから使わせない」ではなく、使いながら危険があることを知り、経験し、体感することが大事です。その点は、保護者の方にも理解していただきたいです。

大事なのは、根深く執拗で悪質・陰湿なネットいじめをさせないことです。

自由に使うことを一度許可したなら、もし誹謗中傷や周囲が驚くようなことを書き込む子どもがいたら、きちんと注意をする。エスカレートしそうになったら、どこかで踏みとどまれるようなルール・運用にする。意外にも、子ども同士でネット上の書き込みを見て「それは書かないほうがいいよ」とか「これは言いすぎたかな」と、子どもたちで解決をしようという動きも見受けられます。

いじめの対処については、担任の先生以外にも、学校カウンセラーや養護の先生、学校長をはじめとした管理職を含めた、現場が一体となって対応することが今すぐできる方法の1つです。

「それが難しいのです」という先生方の声が聞こえてきそうですが、できている学校も実際にあります。管理職の力も大きいということは、声を大にして言いたいところです。

「学校端末を使ったネットいじめをどうすれば防げるか」という表現に私は違和感を覚えます。ネットのいじめは小中高ではほとんどが同級生、あるいは部活などで、リアルな結び付きのある相手に対して行われています。「ネットいじめをどうにかしなくては」ではなく、「いじめ」そのものに向き合っていくべきです。いくら学校端末での利用を制限しても、いじめそのものが解決していなければ、学校端末以外(プライベートのLINEなど)でもいじめは行われまったく意味を成しません。

GIGAスクール構想の「現場の課題」を1つずつ解消

ネットがまだない時代、仲のいい友達とノートを交換してお互いが日記を書く交換日記というものがありました。仲間に入れてもらえないとか悪口を書かれたとか、当時はよく問題になり、「交換日記は禁止」ということもありました。

いつの時代でも、子どもは新しいコミュニケーションが好きです。大人に隠れて行うことも好きです。禁止されても見つからないような方法を考えます。ましてや今は、ネット上にさまざまな情報があり、「学校端末」で検索すると、「どうすれば配布された端末からYouTubeを見られるのか」「ゲームができるのか」、フィルターがかかっていれば外し方まで、丁寧に動画で解説している状態です。

こうした状況を知ったうえで対策を取っていくしかありません。

これまでネットのトラブルは、家庭内での出来事でした。SNSは、子ども自身のスマホや家のタブレットで行われていたからです。ところが学校から端末が配布されたことで、トラブルすべてが学校の責任といった風潮が強くなっています。

先生の負担が増えたうえに、そもそもの目的であるICTを活用した教育を行わなくてはならない。教育現場の過酷な状況に、私も一人の保護者として「学校を責めるのではなく、学校とともに考え、協力し、子どもを守っていく」意識をつねに持つよう自戒しています。

しかし、保護者としてはどうしても「学校で使っている端末」ゆえに、学校の対応を期待します。このあたりについては、保護者会やお便りなどで繰り返し「ネットでのトラブル予防」は学校だけでなく、家庭での指導も重要であることを訴えていくしかありません。

難しいのは、冒頭でも述べたように、時間も余裕もなく、環境をすぐに変えることができない、先生方はその中で、端末配布に関わる多くの事柄に対応しなくてはならないということです。

環境は万全ではないかもしれませんが、今、そこにある課題を段階的に1つずつ解消していきましょう。まだルールが決まっていない学校では一度、どんな方法で運用していくか、先生一人ひとりの意識を変えて進めていただきたいと思います。

くま ゆうこ
マモル 代表取締役CEO
大手音響機器メーカーやIT企業でコンテンツ企画やマーケティング、プロモーションなどを担当したのち、以前から問題意識のあった 「いじめ」を少しでもなくしたいという思いから2018年株式会社マモルを設立。 自身の強みであるWebマーケティングのノウハウを生かし、 いじめや組織のハラスメントを未然に防ぐシステム「マモレポ」を開発する傍ら、いじめ・ハラスメント関連のセミナーの登壇、執筆などを行う
(写真:本人提供)

(注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)

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