厳格で純粋な父は「働きすぎだった」
――お二人とも、教員免許を取得されていますね。
あばれる君:小中学校の校長を務めていた父に「大学で教員免許を取れ」と言われ、駒澤大学に進学しました。
土佐兄弟・卓也(以下、卓也):境遇が似ていますね。僕も、小学校の非常勤講師だった母に勧められて教員免許を取得しました。
あばれる君:父は堅物で、俺が高校生の時に家でフライングVのギターを弾いたらパニックになっちゃって。「息子が音楽に走った」と、心境をしたためたA4用紙を部屋に忍ばせてきました。ポエムで俺の目を覚まそうとしてきたんですよ。
――お父様のポエムはどんな内容でしたか?
あばれる君:「運動ができればよいと願って育ててきた。しかし、息子は音楽に走った……」。ギターを買っただけですよ?
卓也:純粋なお父さんですね。
あばれる君:父は俺にも自分にも厳しい人でした。43年間、毎日朝5時に起きて掃除をし、学校で数十人の子どもと接して帰宅後はわが子の世話をする。それで風邪なんてほぼ引かないから、鉄人ですよ。でもこの歳になって振り返ると、父は働きすぎていたし給与も見合ってなかった。先生はもっと尊い存在であるべきです。
卓也:先生は専門資格が必要ですし時間外労働も多いから、もはや医師や弁護士と同等じゃないですか。先生が登下校の見回りも掃除も担うのはやっぱり難しい気がします。
――教員の負担を減らすアイデアはありますか。
あばれる君:専門職として、勉強を教える業務とそれ以外とで分担してもいいかもしれないですね。
卓也:勉強時間を確保できないと、どうしても知識は抜けます。僕が『Qさま‼︎』に出たとき、教員免許を取ったはずの社会科で1問も正解できませんでした。源氏が平家を滅亡させた戦の名前、答えられますか?
あばれる君:待てよ……一ノ谷の戦い?
卓也:逆にそっちが出てくるのすごいですよ。
あばれる君:じゃあ、ライプチヒの戦いだ。
卓也:絶対違うでしょ。
あばれる君:ライプチヒは1回聞いたら忘れられないよな。俺は「Opportunity(機会)」も衝撃が強くて忘れられなかったな。
卓也:「こん」って聞いた瞬間、「墾田永年私財法」は出てきますね。内容は忘れましたが。
あばれる君:そうそう、「禁中並公家諸法度」とか。
卓也:なんでちょっと微妙なやつ覚えてるの(笑)。
あばれる君:先生たちも、生徒が楽しく覚えられるように工夫を凝らしたいはず。でも、やることが多くて授業準備に集中できないでしょう。
「勉強の先生」と「生活の先生」で分業?
――先生にも、勉強時間を確保する余裕が必要そうですね。
卓也:そのためにも、あばれるさんが提案した分担制は効果があると思います。勉強担当の先生と、生活系担当の先生とで分担すれば、それぞれの指導の質も上がりそうです。
あばれる君:昔はたくさん子どもがいたから先生の数も必要でしたが、今なら多少人数を絞って専門性を高めることもできるんじゃないかな。ちなみに俺は、勉強担当の先生になりたい。
卓也:僕も勉強担当がいいかも。授業を楽しくする工夫と、芸人として舞台を面白くしようとする工夫が似ている気がします。
あばれる君:あれ、ちょっと待って。生活系担当の先生って何?
卓也:掃除やホームルーム、体育祭や文化祭を仕切る先生ですよ。
あばれる君:ダスキンが先生ってことですか?
卓也:違いますよ。
あばれる君:家がすんごいきれいな先生ですか?
卓也:違うでしょ。
あばれる君:とにかく、先生のスケジュールはあまりに痛々しいんです。放課後や休日に保護者から問い合わせが来たりして、自分の時間をほぼすべて捧げています。何十人もの世話をするから、芸能界のマネジャーさんとも似ていますよね。
卓也:先生のキャラも難しいですよね。生徒から人気なのは「ルールなんて破っていいぞ」と先生らしくない行動を取る先生で、ルールを守る先生ほど「うるせえな」と思われるじゃないですか。
「筋を通す」先生と、「生徒に寄り添う」先生
――学生時代、先生に反発したことはありましたか?
あばれる君:めちゃめちゃあったよ……中学の先生は理不尽でひどかった。不機嫌な日は至近距離でノックを打ってくるんですよ。もちろん、キツい経験をわざわざする必要はないとは思いますが、人生いろいろなことが起こる中で、動揺しない心や切り抜け方を教えてくれたのは、こうした厳しい環境だった気もするんですよね。もちろん、「水を飲むな」とかはおかしかったですが、1つの目標に向かって諦めずに頑張る経験は今でも生きていると思う。
卓也:意外と僕とあばれるさんは逆のタイプですね。僕は、生徒に寄り添ってくれた先生に感謝したいです。
あばれる君:俺はひねくれてるから、中学生ながらに、「それ、気に入られたいから言ってるんでしょ?」って思っちゃって。職人としての本物の先生なら注意すべきなのに、職務を全うしてないなと。
卓也:そう言われると、核心を突かれた気がするな。
あばれる君:生徒から嫌われても、それは自分の仕事を通した結果ですからね。どんな先生も、生徒に根負けしそうになると思うんですが、それに屈さず生徒に迎合しなかった先生はかっこいいと思います。
卓也:当時からそう思ってたんですか?
あばれる君:いや、僕はもう……嫌いだった……。今でこそ、筋が通っているなと思いますけどね。
――ご自身が先生になったら、どんな授業をしたいですか?
あばれる君:夢物語かもしれないけど、とにかく楽しく学んでもらいたいよね。「黒板をカラフルにする」とかいろんなテクニックを駆使して、躍動感ある授業をしたい。
卓也:それこそ、期末テストでクイズ大会とか楽しそうですよね。
あばれる君:期末でクイズ大会だと(笑)?
卓也:ただ暗記するだけではしんどいから、テスト範囲からクイズを出して早押し大会をしたら盛り上がるかなって。
あばれる君:いやぁ、だめだろ! クイズで本来の成績は測れないんじゃない? でも、砕けた授業をしたいといという点は同意です。クラスの委員決めも、社会で学ぶ選挙制度と関連づけてやってみたい。
――授業などを通して、生徒たちにどんなことを伝えたいですか?
あばれる君:「どんな人がいてもいいんだよ」ってことですかね。芸能界に入ってから、世の中には本当にいろんな人がいるなと日々実感しますが、お笑い芸人の仕事はそれをいかに面白く伝えるかです。人に迷惑をかけるのは別として、理解不足が生んでしまう痛ましい話もあるので、どんな人もありなんだということは言いたいですね。だからお兄ちゃん(卓也氏)みたいに、こんなに面長な人がいてもいいと思う。
卓也:それはいくらだっているでしょ!
あばれる君:ここを灰色に塗っててもいいと思うし。
卓也:これ塗ってないんすよ、髭(ひげ)っすよ。
あばれる君:ということで、自分が担任になったら、名前や容姿へのイジりにいちばん目を光らせますね。中学生の時、友達の名前で替え歌をして遊んでいたら、先生が全体集会でめっちゃ怒って。そこで初めて、「嫌な気持ちにさせていたのかも」と気づいたんです。誰かに言われないと気づけないこともありますから、相手を思うきっかけとなる言葉は積極的にかけたいですね。
卓也:僕も授業で「土佐日記」や「土佐犬」が出るたびに注目されましたが、むしろそれでクラスの笑いを取っていたので、先生も怒ることなく一緒にふざけてましたね。実際、僕自身はまったく苦痛じゃなかったし、まずは生徒一人ひとりの個性にアンテナを張るのが基本だと思います。あばれるさんは、お子さんの学校生活には何を望みますか?
あばれる君:学びへの興味を持つことですかね。生活態度の指導は家庭でもやりますから、やはり学習意欲を身に付けてほしい。あとは、友達付き合いの中で、うれしさや悲しさを敏感に感じ取ってほしいです。でも、親父が土佐兄弟だと、これ娘さんイジられますよ。
卓也:いやいやいや(笑)、人気者になりますって!
あばれる君:まあ、そういう心配もあるじゃん。俺が言うなって話ですけど。
子どもに「ジャニーズみたいに」なってほしい
――芸能界で例えると、お子さんにはどのように育ってほしいですか?
あばれる君:たくさんいるけど、澤部さん(ハライチ・澤部佑)みたいになってくれたら文句なしの完全な優等生だよね。でも、自分の子どもとなるともうちょっと毒気を足したいんだよな。伊沢拓司君も、賢くてシニカルな笑いがあっていいな。斎藤工さんもいいですね、性格がよくてまじめで、かっこいいしさ。でも、逆算してどういう教育なら斎藤工さんが育つのかを考えると、それはもう、生まれ持ったルックスですよ(笑)。つまりは、やっぱり澤部さんみたいな思いやりのある人になってほしいです。
卓也:僕は、わが子にはジャニーズみたいになってほしいです。ジャニーズの人と絡んで感じるのが、彼らは自分の役割をちゃんと理解できている。「俺は人前でみんなを楽しませ、勇気や感動を与える存在なんだ」と、日々使命感を持って生きているんですよ。
あばれる君:たしかになぁ。Snow Manの向井康二君とか、底抜けに明るくて本当にすごいですよね。共演した時に何げなく「そのTシャツいいね」と言ったら、後日プレゼントしてくれたんですよ。もう着られないんですけど。
卓也:なぜだそれは。
あばれる君:強めの乾燥機にかけちゃって、XLがSSになりました。でもすごい感動したし、その場にいた目黒蓮君も、落ち着いていてすてきだったな。
卓也:芸能界に入った目的が明確で、人のためになりたい、誰かを喜ばせたいという気持ちが強いんだと思います。僕の中では、木村拓哉さんがまさにそうで。
あばれる君:うん、似てるとこあるもんね。
卓也:ありがとうございます。
あばれるくん:いや、ツッコめよ! 受け止めるとは思わなかったよ。
卓也:僕はキムタク好きを公言しているんですが、そしたらロケ中にサプライズで登場してくれて、当時の主演ドラマに「出ちゃいなよ」と言ってくれたんです。人のために動けるのも、自分が木村拓哉であることをわかっていてこそですよね。こうしたスーパースター性は、ジャニーズをはじめ、アイドルはみんな持っているように感じます。だからわが子にも、自分の役割や能力をよく理解して、それを実践できる大人になってほしいんです。
あばれる君:じゃあ、次行きましょうか。
卓也:ちょっと(笑)!
子どもを「怒る」罪悪感はみんな共通
――お子さんとの関わり方における悩みはありますか?
あばれる君:読者さんもアンケートで相談してくれたように、僕も怒ることへの罪悪感があるんです。最近読んだアドラー心理学の『幸せになる勇気』は賞罰教育を否定して、子どもは自分のために動いているのだから、怒らず対等に話すべきと説いています。
でも、現実問題でやはり言い聞かせないといけない場面はあるし、怒らないといけないときもありますよね。例えばレジの最前列で駄々をこねられたら、「やあ、君はなぜ泣いているんだい?」と悠長に構える時間はないわけで、やっぱり「こら!」と言ってしまいますよ。親としての自分を責めないよう、「怒ったんじゃなくて声のボリュームを15段階上げたんだ」と思うしかないです。
卓也:わかります。怒ることが必要な時期もあるはずですよね。ただ、大人の物差しに当てはめすぎてしまうのはよくないのかもしれません。僕は「わからせる」ことを意識しています。レジ前であれもこれもと持って来られたら、「え? なんで今それを買えると思ったの?」と考えさせます。
あばれる君:「なんで欲しいの?」じゃなくて?
卓也:はい。「誕生日でもないのにどうして買ってもらえると思った?」です。
あばれる君:怖いよ……(笑) 怒らない育児を軽々とこなしている人を見ると胸がズキズキします。インスタなんか、みんなキラキラ笑ってて、「ああ怒らない育児なんだろうな」と思うよ。
卓也:いやぁ、あれはいい部分を切り取っているだけですよ。実際は怒っていても、さすがに公開できないじゃないですか。
あばれる君:インスタと言えば、今の子どもたちはみんなタブレットの使い方を知っていますよね。授業で使うから学校でも指導されているようです。でも、唯一教わってないのかなと思うのがカメラの使い方。「撮っていいですか?」と聞く前に、もうカメラを向けちゃうんですよね。それが、先生も一緒になって撮ってたりしますから、カメラのマナーは見直したほうがいいんじゃないかな。カメラはまず確実にタブレットに付いているわけですから。俺、変な顔してるところを撮られたら嫌だもん。
卓也:そこですか(笑)。
――今後、連載で話を聞いてみたい人はいますか?
卓也:僕らがここでしゃべったことも、親や教育免許を持つ者としての理想にすぎないので、やはり一度、現役の先生に話を聞きたいですね。現場の実情を聞いて、あばれるさんの言う働き方改革についても一緒に考えてみたいです。
――最後に、先生方への激励のメッセージをお願いします。
あばれる君:人が物事をどんどん吸収できる期間も短いですから、先生方にはそうした年代の子どもと濃密に触れ合える喜びを感じてほしいですね。俺が芸能界で大物芸人や俳優に会って感動したように、先生もいろいろな生徒と出会って感動できるフレッシュさを忘れないでほしいです。子どもの成長を見られるのは先生の特権ですから。
卓也:子どもたちは大きくなっても、先生のことを忘れませんしね。生徒からすれば1年目でも立派な先生なので、新人の先生方も自信を持って自分の教育理念を貫いてほしいです。
あばれる君:先生の労働環境はもっと改善されてほしいですが、人の人生に深く関わる尊さを感じつつ、先生ならではの経験にやりがいを見いだして頑張ってほしいですね。
(企画・文:田堂友香子、撮影:今井康一)