「白鵬たたき」にみる日本型"イジメ"の構造 我々の屈折した「承認欲求」を直視し解放せよ

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朝青龍にしても白鵬にしても、彼らがかりにアメリカ人かイギリス人だったらこれほどたたかれただろうか、とついつい考えてしまう。

学校や職場のイジメも構図は同じ

こうして白鵬に対する集団的なバッシングが広がった。相撲と無関係な各界の重鎮からネトウヨ、そして一般の人たちまで、日ごろのうっぷんを晴らすかのようにSNSなどを使っていっせいに白鵬をたたきはじめたのである。

その展開は学校や職場のイジメと驚くほど似ている。

たとえば公立の小学校や中学校では、進学塾に通う勉強がよくできる子、海外留学の経験があり教師よりも英会話が堪能な子、音楽など芸術のプロをめざし英才教育を受けている子などがしばしばイジメに遭う。

教師も人間なので、このような子がクラスにいると内心は面白くない。それがちょっとした言動に表れることがある。それを目にした生徒たちは教師のホンネを敏感に察知し、標的となる子の些細な落ち度をとらえて嫌がらせや仲間外しなどをはじめる。

職場もまた学校と同様、わが国ではメンバーが固定していて閉鎖的なため、独特の慣習や序列ができやすい。そのため上司や先輩のお株を奪うような仕事をする人や、空気を読まない人が入ってくると職場ぐるみで嫌がらせをするようになる。しかも「敵」をつくって自分たちの結束を高めようとするため、嫌がらせはエスカレートしていく。

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高度成長期と違って、企業も経済も拡大することができないし、会社の中では役職ポストも削減されている。「表の承認」を得るチャンスが少なくなっているのだ。そのためグローバル化という世界の潮流と裏腹に、日本人の意識はますます内向きになっている。人々の活躍や成功をたたえるより、異質なものを排除し「出る杭」を打つ日本社会の暗部「裏の承認」がますます色濃くなっているように感じる。

このような日本社会の現状を理解し、人々の心中に巣くう歪んだ承認欲求を直視しないかぎり、口先だけでいくらきれい事をとなえてもイジメはなくならない。正義漢ぶって白鵬バッシングに溜飲を下げている場合ではないのだ。

太田 肇 同志社大学名誉教授

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おおた はじめ / Hajime Ohta

兵庫県出身。同志社大学名誉教授。経済学博士。主な研究分野は個人を生かす組織・社会づくり。日本における組織論の第一人者として著作のほか、働き方改革や社員のモチベーションアップなどに関するマスコミでの発言、講演なども積極的にこなす。また猫との暮らしがNHKで紹介されるなど、愛猫家としても知られる。著書は、『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』(集英社新書)、『「自営型」で働く時代』(プレジデント社)、『何もしないほうが得な日本』(PHP新書)、『日本人の承認欲求』(新潮新書)など40冊以上あり、大学入試問題などに頻出している。『プロフェッショナルと組織』(同文館出版)で組織学会高宮賞、『仕事人と組織』(有斐閣)で経営科学文献賞、『ベンチャー企業の「仕事」』(中公新書)で中小企業研究奨励賞本賞を受賞。

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