今こそ必要な公共投資を、日本のインフラは劣悪--リチャード・カッツ

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国際基準から見て劣悪な日本の社会インフラ

こうしたシステムのコストは巨額である。プロパンガスを運搬し、浄化槽を洗浄するコストと労働時間を考えてみたらいい。そのうえ浄化槽は地下水を汚染するリスクもある。事実、日本で最も汚染が進んでいるといわれる千葉県の手賀沼の汚染源は、浄化槽からあふれ出た水である。都市のインフラを改善することは、人々の生活を改善するだけでなく、資産価値も高めることになる。

日本は非常に豊かであるにもかかわらず、公共の下水処理施設を利用できる地域に住んでいる日本人はわずか69%にすぎない。バブルがピークをつけた89年の36%に比べれば高い数字だが、それでも低水準である。OECD(経済協力開発機構)の05年の下水道利用率のデータによれば、先進国25カ国のうち日本は21位に甘んじている。フランスの82%、ドイツの95%、イギリスの98%と比べると大幅に低い。

単なる沈殿やバクテリアによる処理ではなく、化学薬品を使った高度な処理を行う浄化槽の日本での普及率はわずか12%にすぎない。06年のデータでは、先進20カ国で19位である。イギリスとフランスはともに42%、ドイツは90%と日本とは比較にならないほど高い。

日本の河川や湖、湾、海の15%が国の水質基準を満たしていないのも、こうした処理方法に原因がある。75年の40%よりは大幅に改善しているが、まだ改善の余地は大きい。

人口の27%が住む21県では5~10%の人々が上水道を利用できないでいる。日本の全家計のうち料理や暖房などで都市ガスを使っているのはわずか77%にすぎない。残りはプロパンガスを使わざるをえないのである。65年と比べるとよくなっているが、それでも半数の人はまだ都市ガスを使っていない。90年に初めて77%に達した後は、改善は見られない。家庭へのガス供給は民間企業が管理している。だが、規模の経済を実現するにはガス配管の全国規模で建設する必要があるが、日本の配管は主要な欧米諸国と比べると整備状況は十分とはいえない。

日本の問題は、優れたプロジェクトがないことではない。麻生首相が2月9日の予算委員会で他の国のリセッションと比べると「日本経済の傷は浅い」と語ったように、現実から遊離しているのは政府なのである。過去3四半期、日本のGDPは戦後で最大の落ち込みを記録しており、さらに下落する可能性がある。もはや待っている時間はないのである。

リチャード・カッツ
The Oriental Economist Report 編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで。

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