JR東海・静岡県・国交省「リニア工事で握手」の意味 着工へ大きく前進「川勝時代の対立」解消できるか
2025年8月には鈴木知事と大井川流域10市町の首長との意見交換会が行われ、水利用に支障が生じた際のJR東海に求める補償の基本方針などが話し合われた。
その内容は、補償の請求期限を設けない、因果関係の立証責任はJR東海が負う、国も関与する、内容を文書化するといったものだ。10月にJR東海の丹羽俊介社長が鈴木知事を表敬訪問し、合意文書の締結に向け協議する方針が確認された。そして、この日に至ったのである。
締結式の開始は11時ジャスト。鈴木知事、丹羽社長、国土交通省の水嶋智事務次官の短い挨拶に続き、合意文書への署名が行われた。その後は記念撮影。3人は固い握手を交わし笑顔でカメラの放列に向かった。同席していた流域10市町の首長も交えて再び写真撮影すると閉会となった。時間にしてわずか15分だった。
国交省事務次官「今日の富士山は格別」
その後の囲み取材で、関係者たちの心境を聞くことができた。水嶋次官は鉄道局長時代の2020年4月に有識者会議を立ち上げるなど、県とJR東海の対立解消に尽力してきた。しかし、会議の運営方法に納得がいかない川勝平太前知事から定例記者会見の場で名指しで「あきれはてている」「猛省してほしい」「恥を知れ」と名指しで誹謗中傷された過去がある。
水嶋氏は6月に静岡市を訪れ現場視察を行なった後、記者会見に臨んだ。報道陣から「恥を知れ」と言われてどう感じたかを問われた水嶋氏は「私は中学・高校はキリスト教系の学校で学び、“憎しみを愛の花束に変えて相手の胸に差し出せ”と教えられた。対立からは何も生まれない」と話し、こう続けた。
「静岡のメディアのみなさんにおっしゃりたいのは、誰がこう言った、ああ言ったと報道することで、県民のみなさまが本質を見失ってしまうのがいちばん怖い。リニアの本質とは、早期開業を期待する声と、大井川の水資源に対する影響を心配する人たちの声である。徹底的に議論してこれらを両立させることが求められている。解決の着地点は必ずあるはずだ」
水嶋氏はくやしくて眠れなかった日々もあったとも明かした。ただ、こうした発言の詳細は、川勝支持が優勢だった県内世論にかき消された。忸怩たる思いの中、水嶋氏は7月の人事異動で鉄道局を離れた。
それから5年余りが経ち、知事もJR東海の社長も代替わりする中で、再び静岡にやってきた。3者で握手をした瞬間の心境について記者が尋ねると、水嶋次官は「私は国家公務員なので仕事に私情をはさむことは許されないと思っている」と前置きした後で、こう述べた。
「さまざまな認識の違いを乗り越えて、関係者のみなさまが本日ここで確認書の締結をしたことについて心より敬意を表したい。私自身も感慨深いものがあった。今日の新幹線の窓から見た、晴れた青空の中の富士山は格別な富士山だった」
気のせいか、水嶋次官の発言の途中で、声を詰まらせたような一瞬の間(ま)があったような感じがした。


















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