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なぜ「台湾有事論」が騒がれるようになったのか。「台湾有事は日本有事」は、単なる決意表明でもなく、あり得ない「妄言」でもない

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この「二十一年体制」の核心は、一方的な行動とその対抗措置が際限なく続く「安全保障化」のスパイラルである。その起点として、中国側による「台湾問題」の能動的な安全保障化が進められた。16年の蔡英文政権発足後、中国は中台間で1992年に「一つの中国」原則について合意があったとする「92年コンセンサス」を認めない台湾に対し、対話よりも圧力を選択した。

例えば、外交面では台湾と国交がある国を奪取する攻勢を強め、16年以降ホンジュラスやナウルなど10カ国が台湾と断交したほか、WHO(世界保健機関)総会へのオブザーバー参加も認めないなど台湾の国際的孤立化を図った。経済面では団体旅行客の制限や農水産物の輸入停止など経済的威圧を多用し、軍事面では19年の台湾海峡中間線越え以降、軍事的威嚇を段階的に強化してきた。

現状変更に進む中国に対抗する日米欧

制度面でも、05年の「反分裂国家法」で武力行使放棄を否定する立場を法制化し、19年初には習近平国家主席が「一国二制度台湾方案」を提起した際に「武力行使を排除しない」旨を十数年ぶりに再表明した。22年の『台湾問題白書』では統一後の台湾の「独自の軍隊保有」等の文言を削除、24年には「『台湾独立』頑固分子」に対し死刑を可能にする新法令を通達するなど、七十二年体制下の現状を掘り崩す動きを強めてきた。

これに対し、日米欧は対抗的な行動で応答してきた。アメリカは第1次トランプ政権からバイデン政権に至るまで超党派で台湾への支援を強化し、議会は「台湾旅行法」(18年)などを通じて政府間交流や台湾の国際社会への参加を後押しし、武器売却も拡大した。蔡英文総統によるトランジット形式での訪米や米高官の訪台、欧州諸国の議員団の訪台も活発化した。

さらにバイデン政権は、大統領が複数回にわたり台湾有事の際の米軍関与を肯定する発言を行い、ホワイトハウスがその都度「政策変更はない」と注釈を加えていた。21年4月の菅・バイデン会談の共同声明では1969年以来初となる「台湾海峡の平和と安定」の重要性が言及され、これ以降、G7や日米首脳会談で同様の言及が慣例となった。

いずれも対話による平和的解決を求め、現状の一方的変更への反対を併記しており、西側諸国の首脳声明は「台湾問題」の平和的解決を望む立場が地域の安全保障の課題として国際的に共有されているというメッセージを中国に示す姿勢が表れている。もちろん、アメリカ国務省やG7の首脳声明などでは「『一つの中国』政策に変更はない」、日本の場合は「72年の日中共同声明のとおりである」といった従来の立場も引き続き表明されている。

一方で、中国側はこうした日米欧の対抗措置を再び「脅威」と位置づけ、台湾の島嶼を囲んだ軍事演習を常態化し、法的措置をさらに強化するという再「安全保障化」に踏み込む。決定的だったのは2022年である。

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