語学を生かし、洋楽からドラマ・映画やエンタメ業界を駆け抜けた前田浩子プロデューサーに聞く半生と日台合作映画の舞台裏

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――日本にもランタン祭りがあることに驚いた台湾の観客も多かったと思います。

私も驚きました。冬の間、毎晩ランタンを揚げているホテルがあると聞いて訪ねてみたら、雪と光の美しさがこの映画にぴったりで即決しました。あのシーンは雪も降っていてとても寒かったのですがボランティアで参加してくれた約350人のエキストラの方々が本当に楽しそうで、現場で思わず泣きそうになりました。

そして、「この人たちにコーヒーを振る舞いたい」と言って、350人分のコーヒーをホテルから注文してくれたのが、主演のシュー・グァンハン(許光漢)。皆さん、感動していました。シュー・グァンハンについては藤井監督と私、それぞれお互いの台湾の友人たちに「今いちばん輝いている台湾俳優は?」と聞いて回り、最終的に、藤井監督と私が同時に候補を「せーの!」で出し合ったら、2人とも「シュー・グァンハン!」だったのです。すごいでしょう(笑)。

オンとオフをきっちり分ける台湾の撮影現場

――台湾映画の現場の魅力はどんなところにあると思いますか?

まず働き方がすごく合理的でウェスタナイズされていたところです。撮影時間は12時間以内とされ、絶対に超えない。日本だとつい夜中までやってしまうこともありますが、台湾ではきっちりオンとオフを分ける。おかげで現場の集中力がすごく高い。

藤井監督も影響を受けて、「自分の現場は日本でも12時間で回す」と決めたくらいです。それからご飯が温かい(笑)。日本の現場だとおにぎりや冷たいお弁当が多いのですが、台湾は朝から温かい料理が8種類くらい並びます。スタッフ全員が「今日はどれ食べる?」とか笑顔で話している。だからみんな元気で、現場全体の雰囲気がすごくいい。健康的だしポジティブで羨ましかったですね。

映画プロデューサーの前田浩子と絵本作家の吉田留美によるトークイベント
2025年8月に京都で行われた台湾ベント「台湾光譜」にて、前田氏と絵本作家の吉田留美氏によるトークイベント(筆者撮影)

――これまで日台合作の映画は数多くありますが、成功した作品は意外と少ないと思います。この作品がうまくいった理由は?

日本と台湾どちらかの視点に偏ることなく、“人が人を想う”という国境のないテーマを軸にしたこと、シュー・グァンハンと清原果耶という素晴らしい俳優が出会ったこと、そして、藤井監督の「台湾で映画を撮りたい」という夢が重なった、それらの要素が奇跡のようにバランスよく噛み合ったおかげだと思います。

藤井監督はとてもフラットな個性で、現場でも「どう思う?」「こうしたらどうかな?」とスタッフ全員に意見を聞くタイプです。台湾のスタッフたちも「監督って話しかけちゃいけない存在だと思っていたけど、藤井監督は違う」「オープンで話しやすい現場にしてくれる!」と喜んでいました。どちらかが主導するのではなく、お互いを尊重し合って一丸となって作り上げた映画。大変なことも多かったけれど、「この作品を作ってよかった」と心から思っています。

BABEL LABELは2025 年に 15 周年を迎え、1 年を通して、全国のミニシアターをめぐる特集上映「BABEL LABEL 全国ミニシアターキャラバン」を開催中。

北海道から沖縄まで総移動距離 1万7000 キロ、映画文化を支え続けるミニシアターをめぐる旅。フィナーレを飾るのは、東京・渋谷のユーロスペースで、12/13(土)〜21日(金)の 9 日間に決定。BABEL LABEL15 周年特設サイトはこちら

栖来 ひかり 文筆家

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すみき ひかり / Sumiki Hikari

台湾在住の文筆家。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)。個人ブログ『台北歳時記』:https://taipeimonogatari.blogspot.com/

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