〈バブル終焉⇒再編フェーズへ〉競争激化に直面する「バックオフィスSaaS」・・・業界構図は"クラウド市場を広げる同志"から"パイの取り合い"に

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大企業へのシフトは、SaaSというビジネスの構造上、自然な流れでもあった。

SaaS企業の価値や成長性を測るうえで、最も重視される指標がARR(年間経常収益)だ。ARRは、単純化すれば「契約顧客数 × ARPU(1顧客当たりの平均単価)」という数式ではじき出せる。

10年代~インボイス制度が施行された23年ごろまではDXが進みやすく、顧客数を増やすだけでARRを拡大させることができた。しかしSaaSが広く普及し、新規顧客の獲得ペースが鈍化するフェーズに入ると、成長率を維持するためには、もう1つのARPUを引き上げることが重要になる。

中小企業と比較して、大企業はIT投資の規模も大きく、複数サービスの併売も期待しやすい。SaaS各社は成長を維持するために、ARPUを高めやすい大企業への進出を加速させていった。

市場は飽和、パイの取り合いへ

インストール型のパッケージソフトやExcel、紙での管理が主流だった時代は、SaaS企業にとっての競合は同業他社ではなく、「アナログな業務慣行」そのものだったといえる。同業他社はむしろ、「クラウド市場をともに広げていく同志」といった側面が強かった。

しかしクラウドの普及が進んだ今、市場は飽和しつつある。新規顧客の獲得コストは上昇し、これからの競争は「SaaS企業同士のパイの取り合い」というステージへと移行していく。

こうした環境下で具体化しているのは、ほかのSaaSとの連携の動きだ。

25年11月、ラクスは人事関連システムを手がけるプラスアルファ・コンサルティングとの資本業務提携を発表、約4%を出資する。同社のタレントマネジメントシステム「タレントパレット」のOEM提供を受け、中小、中堅企業向けに「楽楽人事労務」として展開する方針だ。

ラクスの中村社長は「新しいプロダクトを1から作って売り上げを伸ばし、黒字化させるというやり方が難しい局面にきている。リソースを投入するサービス、OEM で供給受けるサービス、といった具合に選別していかないと、収益性がしっかりと出せるものはできないだろう」と話し、今回のような連携を通じた拡大戦略を今後も進めると強調する。

市場が成熟し、高度化する顧客ニーズへの対応に追われるバックオフィスSaaS業界。「自前主義」の限界を超え、連携や再編を通じて新たな成長エコシステムを構築するフェーズへと突入したと言えるだろう。

大手の間で進む領域拡大や具体的な提携の動き、"AI SaaS"の出現により想定される今後の展望などに触れた本記事の詳報版は、東洋経済オンライン有料版記事「〈バブルは終焉〉競争激化に直面する「バックオフィスSaaS」の現在地。大企業シフトに領域拡大…次の成長へ続く試行錯誤、"業界再編"の兆しも」でご覧いただけます。
武山 隼大 東洋経済 記者

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たけやま はやた / Hayata Takeyama

岐阜県出身。東京外国語大学国際社会学部モンゴル語専攻卒。在学中に西モンゴル・ホブド大学に留学。2021年東洋経済新報社に入社し、現在ゲーム・玩具業界を担当。

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