カメラは別の若い女子の姿を映した。黒のワンピースの上にワインレッドのロングコートを羽織った、透き通るような白い肌の女で、栗色のウェーブヘアーを片耳に掛けている。耳朶(みみたぶ)には、銀色のイヤリングが輝いていた。不二家ちゃんだ。
不二家ちゃんは、財布を抜き取られた女子会社員に小声で話しかける。
「お姉さん、鞄、大丈夫ですか?」
その不二家ちゃんの声を聞いた瞬間、直人は妙な感覚に陥った。彼女の声には、少女の純粋さと大人の妖艶さが混在していて、心の奥のデリケートな部分を揺さぶられる。
女子会社員は自身の鞄を確認する。鞄の側面が裂かれていることに気づいて、驚きの声をあげる。
「鞄から、何も盗られてないですか?」
女子会社員は慌てて鞄の中を確認する。
「財布……、財布がなくなってる!」
一斉にまわりの乗客が彼女を見る。
と、不二家ちゃんは唐突に清美の腕をつかんだ。
「わたし見てましたよ。彼女のバッグに、なにか細工してましたよね?」
一斉にまわりの乗客が、今度は清美を見る。清美は眉間に皺を寄せて、不二家ちゃんを睨む。
降車した三人の女たち
「はぁ? なに言ってんのあんた? わたしはなんにもしてないけど」
「とりあえず次の駅で降りましょう」
一悶着の末に次の駅で、清美、不二家ちゃん、女子会社員が電車から降りた。電車が出発すると、三人の女の姿は車窓の向こうに遠ざかっていった。
カメラ視点が切り替わる。場所は駅のホームで、目の前には清美と女子会社員が立っている。不二家ちゃん視点のカメラだ。
清美と不二家ちゃんが、ちょっとした言い争いになっている。近くにいた駅員が駆け寄ってくる。事情を聞いた駅員は困惑しつつも提案する。
「他の利用者の迷惑になるので、とりあえず駅員室へ行きましょうか?」
場所を変えて駅員室で言い争ううちに、二人組の警察官が駆けつけてきた。警察官は事情を聞いたのちに清美を見る。
「一応、手荷物検査をさせてもらってもいいですかね?」
清美は強気の姿勢を崩さなかった。当然だ。清美は電車内に立っていただけで、鞄には指一本触れていない。
「べつにいいけどさぁ、これでなんにも出てこなかったらどう責任取ってくれんの? わたしこのあと美容院の予約してんだけど。キャンセル料払ってくれんの?」



















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