少年時代に労災を経験した韓国の李在明大統領、産業現場を「死の職場」と呼び、諸外国よりも高い労災事故発生率の低減に本腰

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韓国の李在明大統領。韓国国会で4日撮影(写真:REUTERS/Chung Sung-Jun)

韓国の大手鉄鋼メーカー、現代製鉄 の工場でメンテナンス作業をしていたキム・ヨンホさんは、突然跳ね上がった200キログラムの産業用プレス機に足と背中を押しつぶされた。すぐに死ぬ、と思ったという。

事故が起きたのは2019年のこと。現在39歳になったキムさんは、事故発生時は周囲の重機のスイッチは切られていると思ったという。

「道路でひかれたカエルのようにぺしゃんこになった。数秒間、息ができなかった」

機転の利く同僚が機械のオペレーターに知らせてくれたおかげで、キムさんは一命をとりとめた。

韓国の李在明大統領は、自身も少年時代にゴム手袋や野球のグローブを作る工場で働いて手首などを負傷したトラウマから、産業現場を「死の職場」と呼び、諸外国の平均よりも高い労災事故発生率の低減を公約に掲げている。

企業を訪問して安全性向上を促す

同政権はこれまでに、企業の家宅捜索や、労働災害防止のための支出を増やし、下請け労働者にも職場保護を拡大するなどの措置を講じてきた。一方で批判派からは、労働者を積極的に保護するのではなく企業を罰しているだけであり、耳障りのよい労働者寄りの発言は実質的にはポピュリズムに過ぎないとの反発も出ている。

雇用労働省は2026年の37兆ウォン(約4兆円)の予算で、労働災害防止のための支出を増やしたほか、1年間に3人以上の死者を出した企業には営業利益の5%まで罰金を科すと発表した。

大統領はまた、企業を訪問して安全性向上を促し、労働災害を調査する特別チームを設置した。一部の企業はすでに、勤務シフトの短縮や関係者の解雇、プロジェクトの一時停止などの対応を行っている。

鉄道機関士出身でで労働運動家でもあった金栄訓雇用労働相は、仕事に対する意識が変わらない限り、新しい政策は効果的ではないとインタビューで述べた。

「韓国では、国の成長加速のためには犠牲もやむなしという認識がある。そのような認識を根本的に変えなければ、どんな政策もうまくいかないだろう」と、同氏は述べた。

国際労働機関(ILO)の23年のデータによると、韓国の労働者10万人当たりの死亡者数は3.9人で、経済協力開発機構(OECD)平均の2.6人を大きく上回っている。

ロイターがまとめたILOと韓国の公式統計によると、建設業の死亡事故の発生率に関しては、韓国はOECD加盟国の中で2番目に高く、労働者10万人あたり15.9人の死者が発生している。

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