全盲の大学生、当事者目線を生かして「起業」《"望まない進路しかない"のは教育現場に課題》「とりあえず混ぜればいい」インクルーシブ教育に一石
ブイリーチでは、生徒の学びの変化が顕著に現れるケースが多い。
「この春中学3年生の生徒が入塾しましたが、小学校5年生の算数レベルから復習を始めました。基礎が抜けていたため、学校の数学がまったく理解できない状態だったのです。しかし、わずか半年で中学3年生の数学に追いつき、今では学校の進度を追い抜くほどに成長しました。モチベーションも劇的に向上し、自ら意欲的に学習しています。現在は、講師と協力して高校受験に向けた具体的な入試対策を進めています」
さらに、「講師から言われたことをこなすだけでなく、受講回数や科目をどうするかを生徒側から相談されるようになりました。これは、受け身でなく自分で学習計画を立てるという自律的な学びが始まった証しだと感じています」という。
最初の個別面談から入塾へのコンバージョン率も100%と、非常に高い。これは川本さん自身が当事者であり深い理解を持っていること、同じ志を持つ講師との太いコネクションがあることが要因と分析している。
留学経験も力に、学習支援のその先
合同会社WillShineは、25年12月に株式会社化を予定している。LINEアプリを中心とした学習管理システムの開発なども進み、投資家からの支援にも手が届きつつある。11月には、東京・日本橋で開催された医療、介護、福祉をテーマとしたイベント「Healthcare Venture KNOT 2025」内の「インパクト起業家によるピッチコンテスト」にも登壇。最優秀賞、オーディエンス賞の2冠を獲得した。
「今後は、地方の視覚に障害のある子どもたちにもサービスが届くようアプローチしていきたいですね。また、私自身が留学やインターンを通じて大きく成長させてもらった経験があるので、留学をはじめとする課外活動の支援も強化していきたいと思っています」
会社経営と学業を両立させながら、バリアフリー分野の学びを深化させるため、近い将来については「大学院進学を視野に入れています」という川本さん。
「最終的には、ブイリーチのようなサービスが不要になり、視覚に障害のある人だけでなく、聴覚障害や学習障害などさまざまな障害のある子どもたちが、自分の意思を持って学べる社会の実現が理想です」という。
近年、教育現場においてインクルーシブ教育の推進が叫ばれ、その是非や方法論に関する議論が活発に行われている。川本さんは言う。
「インクルーシブ教育は、『とりあえず混ぜればいい』という安易な方法に陥りがちですが、単に混ぜ合わせるだけでなく、その際に起こる反応や問題に対して適切な対応が大切です。障害のある児童生徒の場合、その子の学ぶ権利が保障されているか、周りの子どもたちの学びが阻害されないか、教員の働き方はどうかなど、さまざまな観点からの調整が必要です。
だからこそ、私が考える理想のインクルーシブ教育は、『みんなと学ぶ』『個別に訓練する』など、当事者が自分で選び、学べること。『選択肢がある状態』こそが、真のインクルーシブだと考えています」
人間が受け取る情報のうち、約8割は視覚からの情報だといわれている。
川本さんは、見えなくなってから、世界に対する認識が大きく変わった。目の前の情報に固執しなくなり、自分を包む空間全体の認知が増えたと言う。
「視覚という強い情報、いわゆるバイアスに引っ張られなくなったことで、視覚に隠れがちな『物事の本質』を、深く捉えられるようになったと感じています」
見えないからこそ、本質が見える。その視点でつくる川本さんの学びの場は、「支援する、される」という固定観念を静かに塗り替えていく。インクルーシブ教育の未来は、こうした「当事者発」の小さな一歩から、確かに動き始めている。
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