全盲の大学生、当事者目線を生かして「起業」《"望まない進路しかない"のは教育現場に課題》「とりあえず混ぜればいい」インクルーシブ教育に一石
「勉強したいけどできないこと、将来を考えるうえでどんなロールモデルがいるのかにたどり着けず、進路の選択肢が限定的であること、同じ障害のある仲間に出会う機会が限られていること。これらの課題の根幹には、『見えない・見えにくい』を深く理解して継続的に伴走してくれる人が周囲にいないことにあると思いました。適切な人が関わり、適切な学習の機会さえあれば、子どもたちの可能性はもっと広がっていくはずなんです」
当事者が設計・指導する「ブイリーチ」の誕生
そこで、大学進学後、学業の傍ら2024年11月に合同会社WillShine(ウィルシャイン、東京都港区)を設立。25年1月、見えない・見えにくい専門のオンライン個別指導塾「ブイリーチ」を立ち上げた。
視覚に障害のある全国の子どもたちを対象に、小中高の学習や中学・高校・大学の入学試験、英検はじめ資格試験の受験対策などをオンラインで指導する。1コマ1時間の授業が月4コマの「スタンダードコース」が月額1万2000円。大学受験対策に特化した「合格突破コース」(月額3万円)、生徒の都合や目標に合わせて授業回数を自由に設定できる「カスタムコース」などがある。
25年11月現在、生徒数は小学2年生から中学3年生まで14名。全員が全盲で、首都圏からの受講が多い。スタッフは13名。講師は全員、視覚に障害のある大学生・院生だ。
「視覚に障害のある当事者だからこそ、生徒の学習におけるつまずきのポイントが手に取るようにわかります。子どもたちに深く寄り添い、その克服法を具体的に提案できること。これこそが、ブイリーチの最大の強みです。例えば、学習面では点字の紙の問題集を望む生徒には紙を送り、口頭試問の戦略が必要な生徒にはその対策を練るなど、一人ひとりのニーズと学習スタイルに合わせてサポートしています」
小学生には「講師と児童の信頼関係の構築」を最も重視し、中学生には、保護者のサポートなしに自立して学べる力の習得を目標としているという。
ブイリーチは、1コマ60分3000円の受講料のうち、1500円を講師に還元する形で運営されている。このビジネスモデルの立案過程においては、大学2年次直前のスペイン・マドリードへの留学経験が大きな転機となった。
「世界中から視覚に障害のある若者8名が選抜されたビジネスキャンプ『グローバルリーダーシップ研修』に参加した際、当初は家庭教師を紹介する『仲介型』の運営を構想しプレゼンしましたが、『責任の所在が曖昧になる』など厳しく指摘されました。それを受け、教育の質と講師の就労環境を守るため、組織として講師を直接雇用する形への転換を決断しました」
こうして、「当事者」が教育を設計し、質の高い雇用を生み出すという独自の塾モデルが確立した。



















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