長崎新幹線は「全線フル規格」で進めるべきだ フリーゲージトレインにメリットは少ない!
しかし、現状ではいま挙げた予想とはいくぶんか異なった形態で整備が進められている。現在、建設工事が行われているのは佐賀県武雄市にある佐世保線の武雄温泉駅から長崎駅までの66・0キロメートルだけであり、新鳥栖-武雄温泉間の建設工事はまだ着手されていない。
長崎新幹線と同様、鹿児島ルートも終点部分から着工となり、2004(平成16)年3月13日にまずは新八代-鹿児島中央間が開業し、2011年に博多-新八代間が開業した。このような経緯から、新鳥栖-武雄温泉間もいずれ着工となり、フル規格での開業を果たすのではと思われるのだが、いまのところその予定はない。在来線の長崎・佐世保両線の新鳥栖-武雄温泉間を活用するのだという。
在来線とフル規格の新幹線とを直通する例はすでに山形、秋田両新幹線で見られる。両新幹線では在来線の奥羽、田沢湖両線の軌間(2本のレール間の幅)を在来線の1067ミリメートルから1435ミリメートルへと広げて対応した。
フリーゲージ投入でコストダウン
ところが、新鳥栖-武雄温泉間では軌間を変更する計画は立てられていない。それではどのようにして乗り入れるかというと、車輪の幅を変えることで軌間の異なる路線に乗り入れ可能な車両「フリーゲージトレイン」を開発して投入するのだという。
具体的には新鳥栖、武雄温泉の両駅に軌間を変換する装置を用意しておく。フリーゲージトレインはごく低速で軌間変換装置を通りながら車輪を動かす。変換に要する時間は1回当たり3分ほどと見込まれている。
フリーゲージトレインを用いた長崎新幹線の整備は佐賀県の要望に基づくものだ。
仮に長崎新幹線をフル規格で建設した場合、佐賀県を通るフル規格の区間は69・1kmとなり、鹿児島ルートでの実績から同県の実質負担額は筆者の試算で870億円と見込まれる。
一方、佐賀県の試算ではフリーゲージトレインで整備すると、フル規格の区間は17・8kmと短くなり、佐世保線肥前山口-武雄温泉間の複線化工事を含めて約225億円(佐賀県の試算)とおよそ4分の1で済む。
佐賀県の見解は次のとおりだ。
「将来の佐賀県の基盤づくりに必要な新幹線の整備は、福祉や教育の予算を確保したうえで、投資的な経費の枠(平成26年度当初予算約933億円)の中で計画的に進めています。」(「活かそう九州新幹線西九州ルート 鹿児島ルート」、佐賀県新幹線・地域交通課、5ページ)
少子高齢化が進むなか、限られた予算を有効に使うことは意義深いことであり、佐賀県の判断が誤りであると言うつもりは毛頭ない。ただし、その前提となっているフリーゲージトレインに暗雲が立ち込め、事態は複雑な様相を見せてきている。
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