長崎新幹線は「全線フル規格」で進めるべきだ フリーゲージトレインにメリットは少ない!
フリーゲージトレインにとって不利な材料はまだ存在する。車両の寸法は在来線の基準に合わせなければならないためにフリーゲージトレインは全長で5メートルほど短く、全幅で0・4メートルほど狭い。
したがって、ホームドアが設置された鹿児島ルートや山陽新幹線の各駅では客用扉の位置が合わなくなり、ホームドアの改修が必要となる。山陽新幹線のホームドアは新神戸駅のみとはいえ、JR西日本が改修に応じるであろうか。
新大阪駅への乗り入れという問題も生じる。この駅の所有者はJR東海だ。東海道新幹線では1日に310本以上の列車が運転されており、いったん輸送障害が生じると影響が多岐に及ぶことから、同社は自社の規格に合わない車両の乗り入れをひどく嫌う。九州新幹線用のN700系でさえ難色を示したというから、よほどの条件を付けない限り、フリーゲージトレインの乗り入れなど認めないはずだし、新大阪駅のホームドアの改修にも相応の負担を求めるに違いない。
フリーゲージトレインが博多-長崎間を往復するだけでも長崎新幹線を整備した意味はあるだろう。しかし、総工費5000億円のうち、国が実質的に負担する金額は4092億円ほどであり、2015(平成27)年度予算の状況から判断すると、このうち2000億円余りは国民が直接負担しなければならない。ということは、長崎新幹線の抱える問題にもっと目を向けてもよいはずだ。
費用面で言えば、フリーゲージトレインの開発費も無視できない。鉄道・運輸機構はこれまでに380億円を投じてフリーゲージトレインの実用化を目指してきた。その努力は称賛されるべきであるものの、営業運転を開始するまでにはさらに数百億円単位の開発費が必要であろうし、完成したとしても厄介者扱いされることは明らかだ。いまのところはだれが得をするのかわかりづらい事業となってしまっている。
整備するならフル規格で
筆者は10月21日に佐賀新聞社主催の佐賀西部政経セミナーで「九州新幹線西九州ルートの望ましい姿とは」と題して講演を行った。結論から言うと、筆者は長崎新幹線の新鳥栖-長崎間は全線フル規格で整備すべきであると考える。
理由はフリーゲージトレインの技術的な問題、それから多額の投資を実施したにもかかわらず時間短縮はわずかというコストパフォーマンスの悪さだ。仮にフル規格で整備した場合、筆者の試算では博多-長崎間は55分程度と現在よりも56分短縮され、博多-佐賀間も22分程度といまよりも14分早く着く。
フル規格化最大の障壁は財源の問題だ。筆者の見積もりでは総工費は2929億円増えて7929億円へとはね上がり、前述のとおり、佐賀県の負担額も870億円へと一気に膨らむ。
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