21年目の調査捕鯨−−知られざる攻防

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 それらと相前後してあったのが、IWCで議長国を務める米国からの働きかけだった。日本はIWCが科学的議論の行われない「機能不全」に陥っているとし、正常化を求めている。そこで米国は12月11日に一つの提案を示してきた。議長国として正常化の必要性を加盟国に訴えるのと引き換えに、ザトウクジラ捕獲を見合わせてほしいというものだ。日本政府は「かなり上のレベルで突っ込んだ話し合い」(外務省漁業室)を行い、提案受け入れを決めた。同月21日に日本側として捕獲見合わせを公表したのは、この種の問題では異例なことに官房長官だった。


 日本が譲歩したのには、オーストラリアでの反捕鯨熱を沈静化させる狙いもある。だが、新政権はその後も「調査捕鯨は無意味かつ残虐な行い」との主張を前面に出し、反捕鯨外交の手を緩めようとしていない。日本側は「振り上げた拳を下ろすのに困っているのでは」と冷めた目で見ているが、今回の事件も含め急浮上した捕鯨問題は日豪間の懸案事項として横たわったままだ。

 日本の調査捕鯨に対する国際的関心が高まっている背景には、その規模が年々拡大していることがある。

 そもそも調査捕鯨とは何か。IWCは82年、乱獲による資源量の激減や環境保護運動の高まりを受け、商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)を採択した。そこで日本が87年末から始めたのが調査捕鯨だ。国際捕鯨取締条約は、IWC加盟国が自身の判断で資源量や生態を調査する目的でクジラを捕獲することを認めている。「IWCでの承認手続きは必要なく、他国からとやかく言われる筋合いのものではない」と水産庁捕鯨斑は合法性を強調する。「殺さなくても調査はできる」と反捕鯨派の批判は根強いが、年齢や胃の内容物などを知るには「致死的調査が必要」として日本側は譲らない。

 調査とはいえ、商業捕鯨時代と同じように母船を中心とする船団方式で行われており、必要経費は莫大だ。そのため捕獲調査後のクジラはすぐに約15キログラムの赤肉ブロックなどに解体冷凍、日本帰国後に「副産物」と称して売り出し、その収入を費用に充てている。全体の5割強が卸売市場、4割弱が加工会社、残り1割が学校給食関係などに販売される。副産物利用も前出の国際条約が定める義務なのだが、反捕鯨派からは「擬似商業捕鯨」と反発が強い。

 そうした中、日本は調査規模を拡大してきた。当初の対象は南極海のミンククジラ約300頭だけだった。乱獲時代に見向きもされなかったのが小型のミンククジラで、そのため資源量が豊富で最後まで商業捕鯨の対象とされた。18年間の計画で始まった南極海調査の一方、94年には北西太平洋でも調査を開始、2000年からは大型のニタリやイワシ、マッコウの各クジラも対象となった。さらに南極海調査は05~06年のシーズンから6年間の第2期計画に移行、ミンクの捕獲数は2倍超の最大935頭に増え、ナガスとザトウの各クジラも対象に加わった。

 調査捕鯨の実施主体を担うのは水産庁の関連公益法人「日本鯨類研究所(鯨研)」。そこが投じる費用は07年9月期予算で73億円にも上る。それを賄う副産物の収入は68億円(差額は国からの補助金を充当)、量にすると5000トン以上だ。これはモラトリアムに異議申し立てを行い93年から商業捕鯨を再開したノルウェーの捕獲量をも上回る。

 ところが、最近は放出量の増大に対して消費が追いついていないような状況が見られる。水産庁の統計によると、商業捕鯨時代の在庫が一巡した90年代に底ばい傾向をたどった鯨肉在庫は00年ごろを境に急増した。年間を通じて水準は高止まりしており、ざっと見て年間消費量相当分がつねに市場に滞留している。

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