「小1プロブレム」に効果、港区が全区立小に導入した"予算不要"の「プレクラス制度」とは? 入学後1か月の様子を見て「本クラス」を編制

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吉野氏が現在校長を務める港陽小学校では、2025年度の1年生は2クラスで、2人の教員が仮クラスに1週間ずつ交代して入った。プレクラスの名称は「赤組」「白組」などとして、正式編制の「1組」「2組」といった名称と混乱しないようにしている学校が多いそうだ。

「プレクラス期間中は、学年の教員全員がすべてのクラスの児童と関わり、子どもたちの様子をじっくり観察します。年度当初に学年の教員全員ですべての児童を見ることで、本クラスを編制した後も『学年全体で子どもを育てる』という意識で教員が児童に関わることができるようになります」

本クラスの編成を行うにあたっては、プレクラス期間中に把握した児童の特性などの情報を学年の教員で共有して意見交換を行ったうえで、最終的に校長が決定するという。

「不安が強い子は包容力のあるベテランの先生のクラスにしたり、エネルギーに満ちあふれている子は若手の先生とたくさん外遊びができるようにしたりというように、児童と教員のマッチングを考えたクラス編制ができるのは大きなメリットです。また、この制度があることで、個別の支援を必要とする子はベテランの先生のクラスにするなど、教員の力量に応じたクラス編制もしやすくなります。本クラス編制の際には、保育園や幼稚園からの情報では漏れてしまうような“少し気になる”子どもたちや、子ども同士の組み合わせによって問題が起こりやすくなるケースにも注意を払うようにしています」

2025年度の港陽小学校ではプレクラス期間中、片方のクラスは落ち着いて行動できる子が多かったものの、もう一方のクラスはあまり落ち着きがなく、偏りが見られたそうだ。そのため全体のバランスを調整して本クラスを編制したところ、仮クラスからの移行もスムーズだったという。

教員の方を向き、姿勢を正す港陽小学校の1年生たち

なお、プレクラス制度の運営にあたっては、教員ごとに指導内容が異なると子どもたちが混乱してしまうため、「事前に教員同士で細かく指導方法を打ち合わせておく必要がある」と吉野氏は指摘する。

「とても細かいことですが、ランドセルはどの向きで置くのか、机の上に出した筆箱や教科書はどの位置に置くのかといったことについても、教員同士で話し合って指導の内容を揃えておくことが大切です。従来よりも教員同士の打ち合わせにかかる時間は増えますが、同じ学年の教員の取り組みを見ながら学べる機会が増えることは、若手教員の安心感にもつながっているように思います」

一時的な事務作業が増えても「上回るメリット」がある

仮クラスに慣れてきた5月のタイミングで本クラスに移行することで、友達関係が変わって不安を感じる子どもはいないのだろうか。

「そのように心配する声もありますが、子どもたちにしてみると、本クラス編制後はほかのクラスにも知っている子がいる状態になるため、より広いコミュニティを築いていけるメリットもあります。また、プレクラス期間に学年の教員全員と関わる経験をしておくことで、子どもたちは何かあれば自分が話しやすい先生に相談できるようになります」

保護者に対しては、入学前の保護者説明会でプレクラス制度について説明し、本クラスの編制に関しては保護者からの要望は原則として受け付けないことにも言及して理解を求めている。ただ、学校と密なコミュニケーションが必要な保護者がいる場合は、保護者対応の経験が豊富なベテラン教員がその児童の担任となって対応できるよう配慮するケースもあるという。

なお、5月にクラスを再編することで、靴箱やロッカーの名前シールを貼り直したり、机や椅子の移動をしたりといった学校現場での事務作業の負担は増える。その点について吉野氏は、「1年生が5クラスだった白金小では、作業日を決めて全教員で取り組み、1時間程度で作業を終えることができました。2クラスの港陽小では、1年生の担任・副担任・講師が協力したことで、大きな負担なく本クラスへの移行ができました」と話す。

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