国内外で増える「寮のある学校」背景に社会と学びの変化、海外大への合格実績に驚きの声も 広島叡智、国際高校、ハロウ安比、国際高専…
生徒同士の関係も、従来は上下関係があり階層的でしたが、現在は同じ目的を持つ仲間意識が築かれていることが多いように思います。クリスマスやハロウィン、ハウス対抗戦など、友人とともに楽しめる年間行事が多く用意されています。
学びを深め、対話を生み出すクリエーティブな共創の場
では、寮があることで、教育上はどのようなメリットがあるのでしょうか。
社会の変化が激しい現代においては、習得した知識や技能を活用して、ときに他者と協働しながら課題を解決していくことが求められます。コミュニケーション力や忍耐力、創造力などの育成も必要で、人格や感性、社会性を総合的に育む「全人教育」の重要性が高まっているのです。
その点、寮のある学校では、多様な仲間と生活を共にし、さまざまな場面でグループワークやプロジェクト型学習を通じ協働して課題に取り組みます。音楽・美術・スポーツなど多様なプログラムや課外活動も充実していて、家庭では体験しにくい幅広い学びも得られます。
石川県にある国際高等専門学校は、「英語×理工学」で旧金沢高専から国際高専に名称と学びを国際化しました。1・2年次は、寮のあるキャンパスで学びますが、プライベートを確保し、共同生活も行うことができるユニットを導入しています。
3年次は、ニュージーランドの国立オゴタポリテクニークに1年間通いますが、現地でホームステイをします。寮で自立し、ホームステイで英語によるコミュニケーションの質と量が増えていく仕組みが取り入れられています。

(写真:国際高専提供)
また通学時間が不要となることで、子どもたちはより多くの時間を学習や自主活動、趣味・特技の追求に充てることができ、生活リズムも安定するといいます。こうした環境は、子ども一人ひとりの個性や可能性を伸ばす土壌となるだけでなく、他者と共創しながら新しい価値を生み出す力や、社会で求められる実践的な人間力の育成にも直結しています。
教育のプロに任せるという選択
さらに、寮のある学校が増えているのには社会的な背景も影響していると考えます。核家族化や共働き世帯の増加により、子どもを「教育のプロ」にサポートしてもらいたいと考える家庭が増えているのではないでしょうか。
神石インターナショナルスクールの理事長・末松弥奈子氏は「教育のプロに任せることで、子どもと親の双方に成長の機会が生まれる」と言います。
都心から離れた郊外にある、またさまざまな施設を持つ学校も多く、乗馬や農業、スキーやゴルフなど、家庭ではなかなか得られない経験や習い事ができるのも魅力です。子どもの学びや体験の選択肢と可能性が増え、寮生活を通じて子どもは自立し、親の子離れも促進されます。
また、「引きこもり」や不登校への対応策としても、寮生活は有効と考えられています。寮は、子どもが家庭外で多様な人間関係や社会性を身につける機会となり、自立心や協調性の育成にもつながります。
「地域みらい留学」のサポーターで、自身の子どもも寮のある学校に在籍している高田理尋氏は、「多様な友達の考え方、価値観に触れ、視野が広がるとともに自己効力感も高くなる」と言います。親は、寮にいる子どもに必要なものをネットで購入して送ったり、今や送金もネットでできる時代のため仕送りなども支障が少ないといいます。
ただ、子どもが寮に入りたいと言っても、寮に入れたがらない、受験自体に反対する親もいます。寮も含めた「全人教育」を評価しつつも、親元を離れて生活することに不安を抱く保護者もまだ多くいるようです。

国際教育評論家、International Education Lab(IEL)所長、インターナショナルスクールタイムズ編集長
アメリカ・カリフォルニア州トーランス生まれの帰国子女。人生初めての学校である幼稚園をわずか2日半で退学になった「爆速退学」の学歴からスタート。帰国後、千葉・埼玉・東京の公立小中高を卒業し、大学では会計学を専攻。帰国子女として、日本の公立学校に通いながら、インターナショナルスクールの教育について興味を持つ。2012年4月に国際教育メディアであるインターナショナルスクールタイムズを創刊し、編集長に就任。その後、都内のインターナショナルスクールの理事長に就任し、学校経営の実務経験を積む。また教育系ベンチャー企業の役員に就任、教育NPOの監事、複数の教育系企業の経営に携わりながら、国際教育評論家およびインターナショナルスクールの経営とメディア、学校および海外のインターナショナルスクールから日本校の開校コンサルティングの国際教育のシンクタンクInternational Education Lab (IEL)の所長を務める
(撮影:今井康一)