思惑が合致したEUとインドは、これまで停滞していた自由貿易協定(FTA)の交渉の加速で合意し、年内の妥結を目指して双方の代表が活発に往来するようになっている。インドのPTI通信社がインド政府関係者の話として伝えたところによると、EUとインドは7月中にも暫定的な協定(アーリーハーベスト)の合意を予定しているようだ。
報道によると、EUはインドに対して、政府調達の不透明性の改善を強く訴えているという。インドは国産品志向が強いため、公共調達から外資系企業を排除する傾向があり、その改善をEUは訴えている。対してインドは、農作物への関税引き下げやEU諸国の政府補助金の削減を主張している。現在、こうした隔たりに対して詰めの協議が行われている。
なおインドはすでに、スイスとノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインの4カ国で構成されるEFTA(欧州自由貿易協定)との間で、2024年3月に貿易経済連携協定(TEPA)を締結している。また旧宗主国である英国との間でも、2025年5月に2国間FTAの締結で合意に達している。そのため、実はEUの出遅れ感は拭えないところだ。
非関税障壁にうかがい知れる双方の隔たり
トランプ政権に対する危機感がドライバーとなり、EUとインドのFTAが年内で合意に至る展開は十分に予想される。それはそれとして、EUがその理想主義的な通商観をインドに強く押し付けるようでは、FTAが発効に至ったとしても、EUとインドが通商関係を実際に深めることはできないだろう。なぜか。
基本的人権を重視するEUは、近年、モノの生産過程において人権が蹂躙されていないかどうかを厳しくチェックする姿勢を強めている。いわゆる人権デューデリジェンスがそれだ。同様に、環境保護を重視するEUは、モノの生産過程で環境に過度な負荷がかかっていないかを厳しくチェックする。つまり、環境デューデリジェンスである。
人権コストや環境コストに鑑みて、適切な対処がなされて生産されたモノでない限り、EU域内市場での流通を認めないというのがEUの基本的な通商スタンスだ。とはいえ、これに配慮することは、EU域内の企業でさえ難しい。先進国の企業でさえ対応に苦慮しているのに、インドのような新興国の企業となればなおさらのことだ。
EUもこうした「過剰規制」に対する見直しを進めているが、とはいえ特有の非関税障壁の問題は付いて回る。この問題をクリアするには、インドの企業は多大なコストを払う必要がある。一方のインドも、国産品を重視する観点から、インド標準規格局(BIS)による認証取得を義務付けるといった非関税障壁を設けていることで知られる。
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