「東日本大震災で大儲けした」イギリス人が語る「トップトレーダー」たちのリアル、彼らはどうやって"恐ろしくなるほど"儲けているのか

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──「病」ですか。

この本を出した後、一緒に働いていたトレーダーたちが「ギャリーは優秀なトレーダーじゃなかった」と言い始めた。それこそが、僕が言いたいことを示している。金融業界の人たちはこの本を読んでもまだ、「ヤツは自分より上か、下か」ってことしか考えられない。それこそが、この本が書いている「病」そのものだ。

1番であろうとすることに取りつかれると、最終的には「他人を打ち負かす存在」以外の何者にもなれなくなる。

本の中に、僕が同僚や先輩と喧嘩するシーンがいくつか出てくる。鼻と鼻が触れそうなくらいに顔を近づけて。あの場面は、男たちがもっと深く触れ合いたいと思っている裏返しだ。人としてちゃんと誰かとつながりたい、という欲求。だが、競争に取り憑かれている限りそれは不可能になる。誰かと会うたび、「コイツは俺より上か?下か?」って考えてしまうんだから。

これはトレーディングフロアだけの話じゃない。今、多くの若者に起きていることだ。彼らは競争にとらわれすぎて、お互いに本当の意味でつながることができなくなっている。そして、結果的に僕たちは皆、とても不幸になっているんじゃないか。

本書には転勤先だった日本での暮らしについても長く綴られている。「カラシビ味噌らー麺 鬼金棒」のラーメンはお気に入りの1つ(撮影:今井康一)

「罪悪感」の感覚を持ち込む余地はない

──本書には、東日本大震災のときに大儲けしたという話が出てきます。

本当にクレージーだった。そのときの感覚は「ゲームがいかに人間性を奪うか」を完璧に物語っている。震災は人類にとっての悲劇だった。にもかかわらずトレーダーたちは、そこでゲームをやっていたのだから。あのとき、東京オフィスの映像を見たら、ビルが揺れている中でトレーダーたちが机の下に潜ってヘルメットをかぶりながら必死にトレードをしていた。信じられない光景だったよ。

僕は実際に地震で大儲けした。しかも、震災の混乱の最中にポジションをひっくり返して、さらに儲けた。これに対して罪悪感があったと告白することも、開き直ることもできる。だが、本当のところは、そのどちらでもない。そもそもそういう感覚を持ち込む余地がトレーディングフロアにはない。地震が起きたときにはそれを材料にして、ただ取引をするだけだ。

多くの人はトレーディングフロアを「非道徳な場所(immoral)」として描こうとするが、現実のフロアは「道徳の外側にある場所(amoral)」、道徳について考えることがない。これこそが、ゲームが人間性を奪う典型的な例だろう。

実際、日本オフィスの全員が、地震の中で取引をしていた。それが仕事だから。もし今この瞬間に地震が起きても、あの向こうの高層ビルにいる連中は、きっとトレードを始める。本当に、ただただ狂ってる。それ以外に言いようがない。

本インタビューの全文版は、「勝つこと」に取りつかれた狂気渦巻くトレーダーの世界/『トレーディング・ゲーム』ギャリー・スティーヴンソン氏に聞くでご覧いただけます。
倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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