年900時間残業、担任外され5年かけて準備で心療内科へ……"文化部版インターハイ"運営の過酷 マニュアル・引き継ぎなくタダで教員に丸投げ

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「20代後半から30代前半は、人としても教員としても大きく成長する時期だと思っています。私は、その機会を逃してしまったように感じます。何年も授業研究ができていないので、研究会で同期の名前を見ると、『このポジションには私がいたはずなのに』と考えてしまうのです」

それだけの犠牲を払っただけに、白木さんが総文祭に注ぐ目線は冷たい。

「文化系部活動の高校生たちが取り組みを披露すること自体は、とても意義深いと思います。でも、そのために教員がタダ働きをするのはどうなのでしょうか。開催前後の数日間は、生徒たちも会場設営や運営業務に駆り出されました。これも、個人的には納得できませんでした。『お金がかけられないなら、教員と子どもにやらせればいい』と、当然のようにボランティア扱いされる時代は、もう終わりにすべきです」

部門によって違いはあれど、例えば吹奏楽部であれば全日本吹奏楽コンクールなど、天王山とされる大会が別にある部活動も多い。教員は「生徒のために」と総文祭準備に駆り出されるが、肝心の生徒側は「(総文祭が)用意されているからやる」といったモチベーションである場合も考えられる。実際、白木さんが顧問をしていた部活動もこのケースであるのに加え、教え子の部員たちは総文祭に参加していなかったそうだ。

総文祭後も続く負担、次の担当者から何度も問い合わせ

さらに毎年異なる都道府県が主催するため、同じイベントにもかかわらず毎回ゼロから作り上げる無駄の多さが、教員の負担に直結していく。白木さんも同様だったが、何もわからず丸投げされた担当教員は、前回の開催地の担当教員に何度も問い合わせをせざるをえない。

総合文化祭の開催実績と予定

「総文祭の終了後も、次の開催地の教員からの問い合わせが続き、しばらくは依然として教育と総文祭準備とのダブルワーク状態でした。担当教員の皆さんも非常に苦労されていると思うので、私もできるだけ丁寧に対応しましたが、今後も多くの先生が犠牲になると思うと耐えられません。せめて、その場しのぎの持ち回り制度はやめて、教員に過度な負担がかからないような組織体制や共有体制を整えてほしいです」

例えばインターハイは、過去は各都道府県で持ち回り開催だったが、2004年からは地域(ブロック)での持ち回りに移行した。国民スポーツ大会(旧称 国民体育大会)は現在も各都道府県での持ち回り開催だが、費用負担の重さなどから、全国知事会では廃止論が浮上している。白木さんの主張は妥当性が高いと言えるだろう。

白木さん自身、「もし文化部の顧問でなければ、存在を知らなかったかもしれない」と話すように、総文祭の知名度は決して高くはない。そのため、裏側で苦しんでいる教員の姿も、残念ながら見えにくいのが実情だ。「共感してくれる先生方の母数は少ないかもしれません。それでも、これから苦しむ先生が少しでも減れば」と経験を明かしてくれた白木さんの思いを、皆さんはどう受け止めるだろうか。

(文:高橋秀和、注記のない写真: 青空 / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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