大阪万博でイタリアと日本の職人文化を比較。グラフィックデザイナー原研哉氏らが語った両国ものづくりの“共通点”そして“違い”とは
しかし、詳細に分析をすると日本の上客による売り上げは「今もすごく堅調」であることがわかったという。日本の百貨店特有の上客を対象とした外商制度。実はこの外商の売り上げは「コロナ中から安定的に良い状況が続いている」と明かす。
卓越した品質とは
そしてそうした上客の間ではイタリアブランドの人気が高い、という。その理由がイタリアブランドを身につけることで「すごく自信を持てる」「気持ちが高まる」「日々の生活が潤う」という感覚があるからだという。
他者から「素敵だね」「どこで買ったの」と褒められる心地よさもあり、それが「心理的な安全安心感、ブランドに対する信頼感」を育んでいるという。
イタリアのラグジュアリーブランドの製品を買い求める顧客のもう1つの特徴が、それらを買う人々が決して流行などで買っているのではなく、「ひょっとしたら自分の子供に引き継げるかもしれない」「自分の孫に受け継げるかもしれない」という思いで買っていることだという。
「何世代も使い続けられる」という可能性を「想像させてくれる」こともイタリアブランドの強さだと宍戸氏は言う。
ベッリ氏も「質的な卓越性」こそが大事だと語る。
短期思考でトレンドなどを追うと、はやり廃りなどに振り回されて右往左往することになる。これに対して、卓越した品質のものを提供し、信頼できる上質な顧客と良い関係を築く戦略は、例えばコロナ禍のような非常時にも安定をもたらしてくれる。
3つのパネルディスカッションの話を総括すると、そんなメッセージが見えてきた。
今、日本の文化戦略、国としてのブランド戦略は散らかっており、必ずしも日本の印象を高めてくれるような卓越した品質を追い求めているようには見えない(むしろ、流行に飛びついている顧客を狙った戦略が多いように見える)。
原研哉氏は冒頭で触れた日本の美学に加えて「日本の伝統を未来の資源」として捉え直す重要性を説いた。
外務省からの依頼でロンドンとサンパウロとロサンゼルスに日本文化の発信拠点「ジャパン・ハウス」を作った原研哉氏。第2次世界大戦後の高度成長で日本の企業は規格大量生産の側に舵を切ったが、そろそろ曲がり角に来ている。
「ポスト工業社会を目指して、やはり自分たちの足元にある日本列島の地勢的な特徴であるとか伝統であるとか、そういうものを過去を振り返るという形ではなく未来の資源としてどう使っていくかが課題」と述べた。
ジャパン・ハウスは、そうした資源が果たして海外の人たちの興味を引くものだろうかということをテストする場でもあったという。
「結果としては僕は非常に可能性を感じています。やはりイタリアと同じように新しい次元の観光——つまり世界中の人たちが日本にやって来る可能性、そして、日本の伝統を未来の資源として、より素晴らしい形に磨き上げる、あるいはPurify(純粋化)していく、ということをやることによって、新しい産業の形に出会えるんじゃないか。そんなことを考えながら仕事をしている」と語った。
日本企業は、どうやったら「MADE IN JAPAN」が、もっと長期にわたって安定的に世界から求められる価値観になるのか、そろそろ真剣に議論を始めていい頃合いだと思う。
関連記事:「万博で注目。イタリアの国家ブランド戦略とは」
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