大阪万博でイタリアと日本の職人文化を比較。グラフィックデザイナー原研哉氏らが語った両国ものづくりの“共通点”そして“違い”とは
「イタリア料理の野菜と言ってまず思い浮かぶのはトマトです。そのトマトが持っているグルタミン酸、いわゆるうま味の成分と昆布が持っているグルタミン酸は科学的にはほぼ同じものです。
肉や魚に含まれるイノシン酸もうま味の成分ですが、この両者が合体した時に、うま味というのは爆発的に大きくなります。ただこのマッチングを利用している料理は世界でもそんなに多くありません。これは日本料理とイタリア料理の決定的な共通点だと思います」
そう語るのはフランスの一流レストランで構成されるルレ・エ・シャトーにも選ばれた金沢のミシュラン二つ星の高級料亭「銭屋」の主人、高木慎一朗氏。
イタリア人のシェフというと、クールに料理を作っているイメージを持っていたという高木氏だが、イタリアのトレントにある高級レストランでコラボイベントをした時のシェフが、給仕がグラスやお皿をぶつけて音を出すたびに血相を変えてキッチンから飛び出し叱責するのを見て、親近感を感じたという。
「1つのミスくらい料理に関係ないと思うかもしれないけれど、ミスは連鎖します。ミスは不注意から来るものであり、集中力が足りていないということでもあり、やはり、そういった時に料理のクオリティが下がったりします。ある意味厳しく空気感を作ることもシェフの仕事の1つだと思っているのですが、それをイタリアでも体験できたのは非常に良かったと思います」と振り返る。
この言葉には日本料理の世界が厳しい労働環境だと言われ若者が離れていることへの憂いも込められている。
農林水産省より「日本食普及の親善大使」に任命されたり、Netflixの料理番組「The Final Table」に出演したりと日本料理を世界に普及させるために八面六臂の活躍をしているが、昨今の日本食ブームをどう見ているのか。
懐石料理はオペラ
「はやっていると言っても寿司とか、ラーメンとか、天ぷらとかがほとんどだと思います。ここにいるイタリア人の皆さんにほかに何か好きな日本料理はありますかと聞いても、そんなにたくさんは出てこないと思います。
これらの料理は音楽で言えばソロです。それに対して私が普段からやっている懐石料理というのはオペラだと思っています。オペラというのは当然、歌も必要です。舞台演出も、テキスタイルも、さらにはシアター自体が劇場でやるのか、外でやるのか、非常に複雑な要素の中で振る舞われるのが懐石料理です。
ですが、それはほとんど知られていません。なので私はまだまだ日本料理が世界に広まったという認識は持っていません」と厳しい。
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