④教員の専門性と裁量を大切にしつつ、健康確保を進める法制度は何か
課題③の問題もあるので、給特法を廃止して、労働基準法完全適用にすればよい、という提案、意見は各方面から出されている。頷けるところも多くあるが、疑問点やマイナス影響も感じている。
詳細はこれも別の記事に書いたが、残業が多い教員に対して、校長、教頭らが、「なぜそんなに時間がかかるのか」「そんなことをやる必要があるのか」など、現状以上に細かく管理してくるようになるだろう。
今でも、働き方改革の流れの中で、例えば学級通信を作る必要があるのか、全校でやめましょう、といった話がよく出る。管理職の関与、介入や全校で統一して業務の一部をやめることには、功罪がある。こうした動きが出るからこそ、業務負担軽減が進む、というポジティブな側面が1つある。一方で、そこまで細かく管理したり統一したりする必要はあるのか、そんな上意下達的な仕事の仕方ばかりでは面白くない、と感じる方もいるだろう。
児童生徒の状況は各学級等でかなり異なるので、どのような教育実践が望ましいかも学級ごとで異なるはずなのに、教員の裁量や創意工夫を大きく制限する運用でいいのかどうか、という問題である。
つまり、教員の健康確保や残業削減に校長等は放任ではいけないし、一定の関わりや支援は重要であるが、同時に、「マイクロマネジメント」とも呼ばれる過剰に細かいところまで制限しようとするのでは、マイナスの影響も大きくなる。もちろん、民間やほかの公務員でも管理職はこうした難しいところの両立に苦心しながらマネジメントしているわけで、公立学校だけできない、などというロジックは成り立たないと思う。
とはいえ、学校現場では、多様で多感で、予測困難なことが多発する子どもたち相手にする仕事である以上、個々の教員の専門性と裁量に任されている部分が大きい仕事ではある。国会でも、教員にとって、どのような勤務時間管理がより望ましいのかという熟議がもっと深まったほうがよいと思う。
⑤外部からのチェック、是正をどう機能させるか
公立学校と、私立学校・国立学校との大きな違いは、給特法が適用されるかどうかであるが、もう1つある。多くの私立学校、国立学校には、労働基準監督署が指導し、是正に動いているのに対して、公立学校は事実上、野放しになっていることだ。
地方公務員制度上、ほかの地方公務員行政職と同様、公立学校の教員に対しては、労基署は管轄外であり(非常勤講師などは管轄)、都道府県、市の人事委員会、あるいは人事委員会を置かない自治体では首長が労働基準監督機関なのだ。人事委員会は大きい市でないと設置されていないし、設置されている自治体でも職員数は少ないので、公立学校の勤務状況や労働安全衛生の改善に乗り出すには限界がある。もちろん、とても忙しい首長が、公立学校の改善に労力を割くことには限界がある。
この問題は、今回の衆院審議でも議論されたが、大きくは変わりそうにない。付帯決議において人事委員会等は「その役割を十全に果たすこと。その際、社会保険労務士や法律家など外部の専門家の知見も活用し、教育職員が働き方について相談できる体制の構築に努めること」との文言は盛り込まれたが、私立学校等に果たしている労基署の機能と比べると、甚だ心もとない。
公立病院などは労基署の管轄になっていることも考えると、私は、労基署を増員などしたうえで、公立学校も対象にしていくことが必要だと考える。
以上、今回の給特法改正の法案について、先生たちの勤務環境、勤務条件を改善する(それは子どもたちの学習にも影響する)ところもたくさんある一方で、問題、課題として、今後より対策が必要と思われるところを述べた。今後参議院や文科省等で深められることはたくさんある。
(注記のない写真:衆議院ホームページ)
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