(政府の措置)
第三条 政府は、令和十一年度までに、公立の義務教育諸学校等(給特法第二条第一項に規定する義務教育諸学校等をいう。以下同じ。)の教育職員(第一条の規定(給特法第二条第二項の改正規定に限る。)による改正後の給特法第二条第二項に規定する教育職員をいう。以下この項及び附則第五条において同じ。)について、一箇月時間外在校等時間を平均三十時間程度に削減することを目標とし、次に掲げる措置を講ずるものとする。
一 公立の義務教育諸学校等の教育職員一人当たりの担当する授業時数を削減すること。
二 教育課程の編成の在り方について検討を行うこと。
三 公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律に規定する教職員定数の標準を改定すること。
四 公立の義務教育諸学校等の教育職員以外の学校の教育活動を支援する人材を増員すること。
五 不当な要求等を行う保護者等への対応について支援を行うこと。
六 部活動の地域における展開等を円滑に進めるための財政的な援助を行うこと。
七 前各号に掲げるもののほか、公立の義務教育諸学校等の教育職員の業務の量の削減のために必要な措置
出所:衆議院ホームページ
法案の附則(成立すれば法的拘束力をもつ)に、こうした支援策など国の役割が盛り込まれたことは、大きな前進だ。国を挙げて先生たちの負担を大きく変えていこうとしていることを、現役教員の方々、また、教員採用試験を受けようかどうか迷っている学生等も知ってほしい。おそらく今後の予算確保に向けてもプラスだろう。
とはいえ、楽観視はできない。何を、どの程度進めるかは、今後の文科省の政策立案や財務省が予算を認めるかによって変わるからだ。
例えば、教員一人あたりの授業時数を削減するといっても、これまでのように小学校での教科担任制を一部の教科で導入する程度なら(それはそれで重要な政策ではあるが)、加配定数という毎年毎年の予算折衝で変動しうる措置にとどまるし、一部の学校、一部の学年に限定の話になる。
また、「教育課程の編成の在り方について検討を行う」と附則案では明記されているが、学習指導要領で規定する学習内容を大幅に削減することまで踏み込むかどうかは未知数だ(むしろ、現行の情勢ではそうとう困難だろう)。
②シニア世代にとって、働き続けたいという動機は高まるか
今回の法改正の趣旨の1つは、前述のとおりよい人材の確保だ。人材獲得といっても、2種類ある。まず、新しく入る人、入りたい人を増やすこと。そして、離職する人をなるべく減らすことだ。
働き方改革のさらなる推進などは両方に関連する話だが、私は、今回の法改正では、シニア世代を引き留め、活き活きと働き続けてもらえるための方策の検討が甘かったのではないか、と考えている。
今回の法案で教職調整額が上がると、退職金にも影響するので、それはシニア世代にとっても、若手にとっても朗報だ。年金受給年齢まで定年延長や再任用で働き続けようとすれば、これまでと同様、子どもの安全や教育に関わる重責を担うにもかかわらず、現役のときと比べて給与水準は相当ダウンする。今でも、ハードワークなことも影響して、50代半ばなどで早期退職する人もいる。
人手不足と言いながら、若者をどう獲得するかばかりに注目して、ベテラン層・シニア世代を大事にできていないのではないか。こうした問題は教員に限らず、公務員全般(あるいは公務員制度なので総務省所掌)に言えることだろうが、今後もっと深刻に受け止める必要があると思う。
③残業の多くを教員の自発的なものとみなす制度でよいか
今回の給特法改正は、給与アップという意味では、約半世紀ぶりの大改正で大きな前進とも言える。だが、残業の多くを、労働基準法上の「労働時間」とは捉えず、教員の自主的、自発的なものである、という解釈に変更を加えるものではない。
長くなるので、詳述できないが、時間外にテストの作問をしたり、部活動指導を行ったり、あるいは保護者対応をしていたりするのは、学校の仕事であるのに、労働基準法上の「労働時間」ではない。これは常識的に考えてもおかしな話だろう。
この問題は、衆院での審議中、たびたび野党からも問題提起され、また参考人陳述で専門家からも指摘されたことではあるが、積み残されたままだ。
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