今後もそうした権限の関係は継続するが、今回の法改正により、上記のことを自治体、教育委員会に義務付けることとなった。
残された5つの課題
だが、今回の法改正で教育現場の実情はどれほどよくなるだろうか。そもそも、法改正の目的は何だったのか。
1つには、人手不足の中で、教員によい人材を集めたいという趣旨が今回の改正の背景にある。今回の改正で十分なのかどうか、例えば、大学生らにどう映り、行動変容(教員採用の受験者増など)につながるのか、今後も検証されるべきだと思う。そことも関連し、検討すべき論点は多岐にわたるが、ここでは5点に整理したい。
① 計画や報告の義務化くらいで、働き方改革は大幅に進むか
② シニア世代にとって、働き続けたいという動機は高まるか
③ 残業の多くを教員の自発的なものとみなす制度でよいか
④ 教員の専門性と裁量を大切にしつつ、健康確保を進める法制度は何か
⑤ 外部からのチェック、是正をどう機能させるか
①計画や報告の義務化くらいで、働き方改革は大幅に進むか
今回の改正案を見て、「自治体と学校に、計画づくりや報告を義務付けただけで、事態がそう大きく改善するほど、単純な話じゃないよね」と思われた方も多いのではないだろうか。私もそうした見方に共感する。
たしかに、計画や報告は、ないよりはあったほうが、はるかによい。実際、総合教育会議において知事ないし市区町村長も同席する中で、実態を共有し、必要な対策を協議することは、予算獲得に向けても重要な一歩となる。また、学校あるいは教育委員会が抱え込まず、首長部局と連携・協力するべきことは多い(例えば、保護者と学校が揉めたケースなど)。
とはいえ、すでにすべての都道府県・政令市では、学校の働き方改革について計画はあるし(市区町村で策定済みは約66%、文科省調査)、程度の差はあれ、首長も状況は把握している。これまでと、どこまで変わるのか。あるいはこれまで十分に働き方改革が進まなかったとすれば、その原因は計画や報告の不足にあるのかと言われれば、疑問だ。
ただし、今回の法案が成立すれば、計画の実施状況(各教育委員会の取り組み状況)も公表されていくようになる。これは教育委員会と学校にとって、かなりプレッシャーになるだろう。もっとも、現在も取り組み状況を公表している教育委員会は都道府県・政令市等では約9割に上る(市区町村は約24%)が、そうした圧をかけるアプローチだけでは限界がある。
現に政令市等で時間外勤務の大きな削減は起きていない。企業でも、ノルマを課して営業担当を叱りつけるだけで、好転するとは限らない。むしろ、教委ならびに校長等から教員に対して、時短プレッシャーばかりが強まる副作用も懸念される。
中教審(中央教育審議会)の検討にも国会審議にも言えることだと思うが、これまでの取り組みの診断、検証があいまいなまま、対策を議論しているところがあるのではないか。現に、これだけメンタル不調者が年々増加しているのに、その背景の分析も文科省等でまだまだ緒に就いたばかりだし、今回の衆院審議でも深まっていない。
関連して、今回の国会質疑を通じても明らかとなったが、文科省は今後、教員勤務実態調査を行う予定はないようだ。教育委員会がタイムカード等で把握しているデータがあるのだから、というのが理由だが、そうした方法では実態把握としても、対策を考える上でも不十分だ(関連記事)。タイムカード等だけでは、何にどのくらい時間がかかっているか不明なので、原因分析や対策の立案はできない。
今回の法案の付帯決議(法的拘束力は有しない)で、勤務状況を調査する方法を検討すること、という内容は盛り込まれたが、「検討する」という程度では甚だ弱い。「3年以内に、国の責任の下、回答の負荷には配慮したうえで勤務実態調査を実施する」というくらいにするべきだ。
修正案で国の役割が明記された
また、教育委員会側あるいは学校側から見れば、文科省は「もっとしっかりやれ」とか「計画を作れ」と掛け声ばかりで、十分な支援はないし、ここ数度の学習指導要領の改訂のたびに業務を増やしてきたではないか、と受け止める人も多い。「自治体、学校への丸投げ、責任転嫁」という批判だ。
私は、国と自治体、学校の誰が悪いという話ではなく、さまざまな主体に反省点があると思う(私のような者も含めて)。その点、国がやるべきことについて、今回の衆院での修正で、ずいぶんと書き込まれた。下記のとおり、教員1人あたりの授業時数の削減や教員定数の改善、不当な要求を行う保護者等への対応への支援などである。
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