ゲームに夢中になると暴言やトラブルが起こりやすい?

子どもがゲームに夢中になると、言葉遣いが荒くなったり、課金したがったりと、保護者は対応に困ることも多いのではないでしょうか。言葉遣いが乱れると、ゲーム中のチャットやボイスチャットで相手を傷つけるような発言をしてしまうおそれもあります。

また、課金については、知らないうちに保護者のクレジットカードを使用し、高額な課金をしてしまうケースも見られます。

では実際、どの程度の子どもたちがこうしたトラブルを経験しているのでしょうか。筆者が都内の公立小中学生を対象に実施した調査では、多くの子どもがトラブルは経験していないと回答した一方で、「仲間とのけんかや仲間外れ」が約10%、「誹謗中傷を受けた」が約5%、「高額課金をした」が約2%と、一定数がトラブルを経験していることがわかりました。

カウンセリングの現場では、シューティングゲームでの敗北や仲間のミスによるいら立ちから、暴言を吐いたり、机を叩いたり、家の中の物に当たって怒りを爆発させる子どももいます。保護者が止めようとする中で、さらにヒートアップして保護者に手を出してしまうケースも見てきました。

また、ゲーム依存の相談では、小学生から大学生まで幅広い年代で「ガチャ課金がやめられない」という訴えが寄せられています。そうした依存性から、最初はお小遣いの範囲で課金していても、次第にのめり込み、保護者のカードを使って数万円から数十万円を使ってしまう事態に陥りかねません。

単なる「〜してはいけない」ではやめられない

暴言や課金行為を目にしたとき、「やめなさい」「怒っちゃだめでしょ」と咄嗟に注意してしまうのは自然な反応です。しかし、こうした声かけでは、子どもの行動を根本的に変えることは難しいといえます。

心理学では、人がある行動を繰り返すのは、その行動にはその人にとって何か「いいこと」が起きているからと考えます。暴言や物に当たることで、悔しさやイライラといった不快な感情が一時的に発散され、スッキリした感覚が得られる場合、その行動は繰り返されてされてしまいます。

森山 沙耶(もりやま・さや)
ネット・ゲーム依存予防回復支援サービスMIRA-i(ミライ)所長、一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会代表理事、公認心理師、臨床心理士、社会福祉士
東京学芸大学大学院修了後、家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて勤務。2019年ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)を立ち上げ、カウンセリングや予防啓発活動を行う。著書に『専門家が親に教える子どものネット・ゲーム依存問題解決ガイド』
(写真:本人提供)

また、「怒ってはいけない」という言葉は、「怒りという感情そのものを抱いてはいけない」という誤ったメッセージとして受け取られてしまうこともあるため、感情を否定するのではなく、適切な対処方法を身につけていくことが重要です。

ガチャ課金も同様に、レアなアイテムが当たるかもしれないという期待感や、ギャンブル的な「もう一度引けば当たるかも」という心理が強く働きます。このため、「もうやめなさい」という指示だけでは子どもの気持ちは収まらず、再びガチャを引いてしまうことも。

叱責を重ねるだけで問題が解決されないと、次第に「どうせ自分にはやめられない」などと子どもが自信を失っていくことにつながってしまいます。

トラブルを予防するために家庭や学校でできること

思春期の子どもは、脳の発達の影響もあり、感情や衝動のコントロールが難しい時期です。刺激の強いゲームやガチャに抗うのは大人でも難しい場合があります。だからこそ、子ども任せにせず、家庭や学校で丁寧に関わることが大切です。

ポイントは、ゲームに対する欲求や怒りといった感情そのものを否定するのではなく、それらへの対処スキルを育てていくことです。具体的には以下のようなアプローチが考えられます。

① 感情や欲求のレベルを下げる工夫をする

強い欲求や感情に支配されているとき、冷静に対処するのは困難です。例えば、長時間ゲームを続けていると疲れてきて、イライラしやすくなったり、ガチャの誘惑に引かれやすかったりするのであれば、1時間経ったらゲームをやめるか、別の活動を挟むようにするといいでしょう。

また、例えばシューティングゲームをする場合でも、より落ち着いてできる刺激の弱いゲームを選択する、あるいはオンライン上の見知らぬ人よりもリアルの友達とプレイするなど、プレイする環境を調整することも有効です。

② 感情に対する言語化と代替行動の提案

中学生の怒りの抑制要因に関する先行研究によると、「自分の気持ちを言葉で表現できること」が怒りのコントロールに有効であるとされています。

「私は今、このようなことで怒っている」とか「ガチャを引きたい誘惑に駆られている」というように自分の気持ちを客観的に見つめることで、その感情と距離をとりやすくなります。保護者や教師は、「今こういう気持ちなんだね」と気持ちを代弁し、言語化をサポートすることができるでしょう。

③ 暴言や高額課金の行く末を考えてみる

私が日頃行っているカウンセリングでは、暴言や高額課金といった行動が、長期的にどのような結果になるかを子どもと一緒に考えます。そうした行動の結果、一時的に気分がスッキリしても、長期的には一緒にプレイする友人との人間関係や生活面、経済面で不利益が生じることを理解することで、子ども自身が行動を見直すきっかけとなります。

④ 「代わりの行動」の提案や練習

もう1つ大切なことは、怒りを感じたときや課金をしたくなったときに、具体的にどのような「代わりの行動」をとるかを一緒に考えること。ダメだとわかっていてもやってしまうのは、その代わりとなる健全な行動が獲得できていないために起こることがあります。

例えば、イライラしていることに気付いたら深呼吸をしてみる、攻撃的な言葉ではなく「これが嫌だ」「悲しい」という言葉を使って表現するなどその場に応じた別の方法を具体的に練習しておくと再発防止につながります。

 

ゲームを通じた暴言や課金トラブルの背景には、感情や欲求のコントロール機能が未成熟であること、適切なスキルがまだ獲得できていないことが挙げられます。

保護者や教員のみなさんは、「やめさせる」ことに焦点を当てるのではなく、子どもの感情と向き合って行動の背景を理解し、子どもとともに「どう対処すればよいか」を考えてみてください。

デジタル時代を生きる子どもたちにとって、ゲームとの付き合い方を学ぶことは、セルフコントロール力を育てる大切な機会といえるでしょう。

※参照元:日比野 桂, 湯川 進太郎, 小玉 正博, 吉田 富二雄(2005).中学生における怒り表出行動とその抑制要因─自己愛と規範の観点から─ 心理学研究,76(5), 417- 425.

(注記のない写真:freeangle / PIXTA)