習い事や旅行に行けない「体験格差」を保護者の自己責任にするのがまずい理由 家庭に「努力や工夫」を求めすぎていないか

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体験格差の解消に向けて、地域社会で体験を支える

CFCでは、体験を「親の負担」ではなく「地域社会が支えるもの」とすることで、体験格差を少しずつ埋めるための具体的な取り組みとして「ハロカル奨学金」を実施している。これは低所得家庭の小学生に向けて、スポーツや文化芸術活動などの習い事、キャンプや職業体験などに使えるクーポンを子どもに無償で提供する支援制度だ。

「ハロカル」には「ハローカルチャー(文化・体験との出会い)」と「ハローローカル(地域の大人との出会い)」の2つの意味が込められているという。2024年夏には、ハロカル奨学金で見えてきた課題を解決するためのトライアル事業として「ハロカルホリデー」を実施。

スティグマ(偏見)を生まず、誰もが体験にアクセスしやすい状況をつくるために、あえて所得審査なしで東京都墨田区の小学生1000人を対象に5000円分の体験クーポンを提供したという。そしてクラブや習い事の事業者に関わらず、地域の大人や商店、施設、クリエイターなどと連携して多様な体験プログラムを立ち上げ、体験の機会を生み出した。

「相撲部屋の朝稽古見学、銭湯の掃除体験、商店街の縁日や職人さんのワークショップなど、地域の大人たちが自発的にさまざまな体験プログラムを提供してくれました。体験を提供する側の大人たちからも、地域の子どもたちと関わる機会が増えてよかったという声が届いています」(今井氏)

墨田区で行われたハロカルホリデーでは、200以上の活動に子どもたちが参加した。左上:相撲部屋の朝稽古見学、左下:鞄づくり体験、右:銭湯の掃除体験
(写真:CFC提供)

参加した子どもの保護者に聞いた、子どもの変化に関するアンケートでは「自信がついた」「挑戦する気持ちが強くなった」「友達が増えた」といった回答が多く、活動を通じて子どもたちに大きな変化が見られたことがわかる。

参加した子どもたちからは「違う学校の友達ができてよかった」「上手だね、という言葉がうれしかった」「新しいことができるようになった」などの声が挙がった。体験プログラムは単なるスキルの獲得以上の価値を持っていることが、このアンケート結果からも見て取れる。

教員が心にとどめておきたい、子どもたちの「多様な背景」

体験格差は、学校教育の場面でも顕在化しうる。例えば、夏休みや春休みなどの長期休暇明けに「楽しかった思い出」の発表を求める宿題は、一部の子どもたちにとっては心理的な負担になりかねない。

「私は、教員や学校関係者が体験格差だけの対策を講じるのではなく、さまざまな家庭環境の子どもたちがいることを認識して接することが重要だと考えています」(今井氏)

体験格差を単なる「親の努力不足」で終わらせず、社会全体でその機会を保障する仕組みを考える。そして、子どもたちの選択肢の幅を広げ、想像力を育む。

「体験の楽しさが、子どもたちの未来を切り開く力になる。体験格差をなくすことは、日本社会の未来を豊かにすることでもあると考えます」(今井氏)

(文:中原美絵子、企画・編集:晏 暁丹、注記のない写真:ViewStock / Getty images)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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