隠れた巨大ヒット「ネジザウルス」の秘密 所さんも注目した、超便利工具

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もし傾斜角が施されていなければ、タテ溝は八の字形に開いた状態でネジ頭をつかむことになり、つかみにくく、ネジを回転させるパワーも小さいままです。しかし、ネジザウルスには逆八の字形に傾斜角が施されているため、ネジ頭を真横からガッチリとつかむことができ、ネジ頭を回転させる大きなパワーが生まれます。それにより、サビて固まってしまったネジでも軽く回すことができるというわけです。

この傾斜角を見たとき、私には往年のギャグが連想されて、以来、頭から離れなくなりました。私たちは、この絶妙な角度を「コマネチ角度」と呼んでいます。

2002年に発売した初代モデル以来、バージョンアップを重ねてきたネジザウルスは、昨年の「ネジザウルスRX」で5代目になります。累計販売数は、おかげさまで約250万丁(工具を数えるとき、丁という単位を使います)。年間1万丁も売れれば大ヒットとされる工具業界では、過去にあまり例のない数字かもしれません。

でも、ネジザウルスは当初、まったく売れませんでした。発売初月の販売数は、たったの15丁です。

ところが、あることをきっかけに売れ行きがガラリと変わりました。名前を変えたのです。最初の名前は「小ネジプライヤー」。「そりゃ売れんわな」と、いまとなっては思いますが、当時はなぜ売れないのかわからず、どうしたらいいのか悩んだものでした。

創業60年で過去最悪の赤字に転落

ネジザウルスという名前は、社内公募で出てきたネーミングです。言うまでもなく、ネジ頭をガッチリつかむ力強さを肉食恐竜に見立てて表現したわけですが、今度は機能がうまく言い表せたのでしょう。名前が変わってからは明らかに売れ行きが伸びて、初月は4500丁も売れました。結局、その年の販売数は約7万丁でした。

その後も勢いは落ちることがなく、翌年も翌々年も5万丁近く売れ続けました。好調を維持し、戦果を拡大するには、新戦力を投入して一気に市場を制圧したいところです。そこで、大きいネジ用(2代目)と小さいネジ用(3代目)を投入。すると、3種類の相乗効果もあって全体の売り上げはねらいどおりに伸び、初代の発売から5年後の2007年には累計30万丁、翌2008年には同40万丁に達しました。

私たちにとっては初めて経験する大ヒットです。社内はますます活気づいて「次は50万丁や!」とおおいに盛り上がったのですが、好事魔多しというべきか、突然、目の前に大きな壁が立ちはだかりました。2008年秋のリーマンショックです。それまでの上り調子から一転して、業績に急ブレーキがかかってしまいました。

私たちのような中小企業にとって、リーマンショックによる不況はたいへん厳しい試練でした。売り上げが落ち込んだだけでなく、鉄やプラスチックなどの原材料費が高騰して、利益率が急激に悪化したのです。その年、私たちは創業から60年目にして過去最悪の赤字に転落してしまいました。

こういうときこそ頼りになるのがヒット商品ですが、さすがのネジザウルスも神通力には陰りが見えていました。発売からもうすぐ7年、すでに50万丁近くも売れています。

「ネジザウルス? そろそろ飽きられてきてるんとちゃいますか」

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