単なる業務削減に盲点、働き方改革「進む学校」と「進まない学校」の決定的差 残業が減らない小学校を変えた「対話型」の改革
「なくす」「へらす」「うつす」「ふやす」の4つの観点で考える
また、庄子氏は初回の研修において、教員が「自分は何のために働いているのか」「どんな働き方が理想なのか」を自問自答する機会をつくり、それを教員間で共有した後に、理想の学校像を全員で対話する時間を設けたという。
「『残業して授業の準備を万全にしたい』という思いがあったとしても、『自分が死ぬとき、時間を戻せたとして今の自分にかける言葉は何か』と問いかけると、『今より1時間早く退勤してプライベートも大切にしたい』と考える人は多いです。働く目的や理想の学校像を教員間で共有しておくと、トップダウンではなく教員一人ひとりが何をすべきかを考えて実行する風土が生まれやすくなります」
教員同士が打ち解けた後は、複数人で1冊の本を分担して読んで要約を発表する「ABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ)」の手法で、文科省の働き方改革事例集を1人10ページずつ読んで要約を発表。続いて、現在の「当たり前」となっている仕事をすべて洗い出し、以下のように「なくす」「へらす」「うつす」「ふやす」という4つの観点で仕訳していったそうだ。
家庭訪問、紙の印刷、通知表の所見、使っていない備品、学校からの配布物、現金徴収、連絡帳(3年生以上)など
【へらす】
授業時数、会議、学年費会計の報告回数、ワークシート、職員室に保管する物、子どもが学校にいる時間、掲示物など
【うつす】
学校通信や学年通信は配信へ、文書は紙からクラウド管理へ、教材作成や健康診断入力などはスクールサポートスタッフへ、連絡掲示板はGoogleクラスルームへ、など
【ふやす】
研修の頻度、外部機関との連携、ChatGPTの活用、Googleカレンダー、欠席連絡・保護者連絡アプリ、職員室のフリースペース、教育書共有本棚、年度末の個人懇談、職員間のコミュニケーションの機会、オンラインでのコミュニケーション、生活科・総合的な学習の時間での地域との関わりなど
こうした案が教員たちから出されて段階的に実施したところ、業務効率の改善や教員のスキルアップにつながっていったという。
研修において庄子氏は、一方的な提案をするのではなく、教員自身がやるべきことを選択できるようにすることを重視しているという。同校でも、次回の研修までに実行することを教員同士の話し合いによって決定し、初回の研修は終了。2回目の研修で庄子氏が同校を訪問した2023年9月の時点では、「別の学校かと思うほど、教員が生き生きとして働き方改革の成果も上がっていた」という。
同校では、働き方改革を開始する以前の2021年度は48時間8分だった担任教員の時間外在校等時間の月平均は、2024年度12月末時点では38時間55分へと減少。

教職員の校内アンケートでは、2023年4月と2025年1月の結果を比較すると、「気兼ねなく帰れる雰囲気がある」が83.3%から100%に、「子どもと向き合う時間が確保できている」が83.3%から95.8%に、「仕事と私生活の調和が取れている」が54.2%から75.0%に増加した。
また、「教職員が意見を出し合うことができている」が75.0%から87.5%に、「共通認識のもとで教育活動を行うことができている」が70.8%から91.7%に増加し、教職員間の意思疎通が円滑に行える組織になっていることがうかがえる。
現在、同校は働き方改革以外の研修にも力を入れるようになっており、庄子氏は生成AIの活用法に関する研修を実施したという。
「自由進度学習なども始まっていて、働き方改革で捻出した時間をこれからの教育に関する学びに充てているのが、吉島東小のすばらしいところ。働き方改革を通じて教職員同士の関係性や意識が変わったことで、デジタルツールの導入など新しいことにチャレンジする風土が生まれたように思います」