教員の「教育力」評価、ファカルティ・ディベロップメント進まない大学の行く末 「学生がどのくらい成長できるか」がポイントに
もともと大学では、研究の業績評価については指導方法もフィードバックも確立されている。だが、教育の業績評価は各自が受けてきた教育の経験に左右されるケースが多い。かといって、新任教員向けの研修が充実しているわけでもない。結果として、授業の上手な先生とそうでない先生の差が埋まらず、年に1度の研修を受けても実質的な効果はないという結果を生んでいる。
「今では、大学院生を対象としたプレFDのプログラムも行われています。その目的は、教員になった瞬間からしっかりと教えられるようにするもので、国内の大学でも徐々に広がっています。東大では立ち上げてから12年目で年間100人程度、大阪大学でも10年目で年間60人ほどが教員になる前に正規の授業を受けています」
実際、東大のFDの現状はどうなのか。残念ながら、これまでは教員個人の努力と学生の優秀さに依存してきたところが大きいという。まずはティーチングアシスタント、そして新任教員、ベテラン教員向けに順次プログラムを展開していく方針だ。東大でFDを推進する教員の1人である佐藤氏も述べる。
「東大でも、コロナ禍に授業をオンライン化しなければならないときは、多くの教員がFDに熱心に取り組みました。ときどきのトピックによって、かなりの数の先生が研修を受ける場合があり、最近では生成AIに関する研修も受講者が多くなっています。しかし、体系的なFDプログラムについては、現在構築中という状況です」
中小規模の大学のほうがFDに熱心?!法令化も検討を
一方、FDの好事例はあるのだろうか。文科省が認定している教育関係共同利用拠点として、大学の職員の組織的な研修等の実施機関が全国にある。
北海道大学、東北大学、名古屋大学、九州大学などの旧帝大、千葉、群馬、愛媛、熊本などの地方国立大学、あるいは筑波大学などが中心となって、教員の能力向上プログラムなどに取り組んでいる。
「国立大学はFDに関する教育関係共同利用拠点に認定されると予算が付き、他大学のFD支援を行うことができます。すでに愛媛大学や北海道大学などの大学が認定されています。私立大学では、芝浦工業大学が理工学教育共同利用拠点として取り組みを始めています。ほかにも立命館大学や大正大学もしっかりとした新任教員向けのFDプログラムを行っています。私立大学では中小規模の大学のほうが、よりFDに熱心だと言えるでしょう」
大学には研究と教育という二本柱があるが、欧米に比べて日本の大学教員は、研究者であることにアイデンティティを持つ傾向が強い。そのため、研究業績が評価されればいいと、教育者としての側面が疎かにされることも少なくない。佐藤氏が続ける。
「大学教員が、勤務先の学生の学力の低さを嘆いている投稿をネットで見かけることがありますが、これは大きな問題です。大学は学生を入学させた以上、能力・資質を伸ばすことが役目です。教員自身が教育者である自覚や努力を欠いたまま、学生に主体的に学べと号令をかけるだけでは手抜き以外の何物でもありません。大学教員は研究者であると同時に教育者であることを改めて認識してもらうためにも、教育者としての研修は不可欠です」
文科省「令和4年度の大学における教育内容等の改革状況について(概要)」によると、自大学に常勤の教職員をFDの専門家として活用している大学は27.5%にとどまる。FDの専門家が集う日本高等教育開発協会(JAED)という教員組織の会員数も48名とまだまだ数は少ない。日本にFDを根付かせるためにはもっと人数が必要だという。