辻仁成「人生の後半、子犬と生きる事について」 人間の孤独を癒やしてくれる素晴らしい生き物

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ところが、その次の瞬間、携帯がメッセージの着信を知らせたのである。

ぼくは携帯を握りなおし、画面を覗き込んだ。

パリの友人からSMSが入っていた。写真家のステファンからで、彼の知り合いのブリーダーから、「君が探していたミニチュアダックスフンドで引き取り手のいない子犬がいるんだけど、と連絡があったが、どうする?」というメッセージだった。

あまりの偶然に、ぼくはびっくりしてしまった。

命が関わる話

子犬の写真が添えられてあった。メッセージには、電話番号が記されていたので、とにかく、ぼくはそのブリーダーに電話をかけることにした。これがご縁なのか、そうじゃないのか、確かめる必要がある、と思ったからである。

「ステファンの紹介です。ツジーです。ミニチュアダックスフンドの件で電話をしました」

「ああ、聞いてますよ。ちょっとその前に何個か質問をしたいのですが、気を悪くしないでください。これは命が関わる話ですからね」

「ええ、当然です。どうぞ」

「あなたは犬を飼ったことがありますか?」

ぼくは、一瞬、考えた。しかし、噓はつけない、と思ったので、

「ありません。犬を飼っている友人たちが周りにはいますが、ぼくには残念ながらその経験がないんです。経験がないと飼えませんか?」と訊き返した。

ミニチュアダックスフンドのさんちゃん
三四郎が毎日見ている世界は地面からせいぜい10センチのところ(写真:辻仁成さん提供)
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