辻仁成「人生の後半、子犬と生きる事について」 人間の孤独を癒やしてくれる素晴らしい生き物

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それは一匹の犬であった。その数秒前まで、ぼくが考えていたことは、…前からこの日記(注:辻さんはウェブで日記を書いている)で書いてきた通り、息子が巣立ったあと、人生の後半を共にするであろう「子犬と生きる人生」についてであった。慌てて、ぼくは走り去った犬を振り返った。

ぼくの目の前を過っていったわんちゃんはそのまま冷たい冬の海に飛び込み、屯(たむろ)していたかもめたちを追い払って、再び、ぼくの方へと戻ってきた。

飼い主のムッシュが、濡れた愛犬を抱きしめ、よくやったな、お前は元気だね、と褒めているようなしぐさを示した。この飼い主がその犬を愛しているのがよく伝わってきた。

運命の着信

ぼくも、やっぱり犬を飼いたいな、と思っていたので、自分がこの子の飼い主だったら、大事にするだろうな、と思って、思わず口元が緩んでしまった。

でも、なかなか現実的に犬を飼うことは簡単ではない。やはり、生き物を飼うことの難しさという問題があった。命を粗末には扱えないし、責任を果たす覚悟が自分にちゃんとあるのか、と考えてしまったからである。

でも、やっぱり、飼いたい。可愛いな、と思った。

犬は人間の孤独を癒やしてくれる素晴らしい生き物である。その犬の飼い主のなんと幸せそうなことか。それが自分だったら、どんなに可愛がるだろう、と思った。

ミニチュアダックスフンドのさんちゃん
三四郎は、ぼくがぼくのままでいいことを、唯一、知らせてくれる存在でもある(写真:辻仁成さん提供)
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