「京アニ事件」報じられなかった被告の病的体験 「社会的孤立」に限定されない複合的な原因があった?

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青葉被告は妄想が深刻になる前に、下着窃盗やコンビニ強盗などの犯歴があり、病前の性格としては、人に恨みを抱きやすかったり、粗暴だったりといった反社会的な傾向があったと想定される。

また、孤立し、社会的に不遇な毎日のなかで、絶望的になったり、社会に対して恨みを募らせていたりしたことも事実であろう。

つまり、こうした要因に精神障害が組み合わさって、今回の事件に至ったと見るべきである。

したがって、たしかに本人に責任はあるものの、精神障害の影響による部分も考慮される必要があったのではないかと考えられる。

この点に関して、精神鑑定でも意見が分かれていたのは先述のとおりだ。そして、判決では精神障害の影響を否定し、「完全責任能力あり」という判断となった結果、死刑判決に至った。

精神障害の影響は究明されないままに

しかし、少なくとも2つの精神鑑定の結果が不一致であったことは厳然たる事実だ。私はどちらかの意見に肩入れするわけではないが、控訴審においては、精神鑑定の結果やそれに関連する被告の行動傾向、そして犯罪事実との関連が、再度詳細に検討されることを期待していた。

しかし、被告の控訴取り下げによる死刑の確定によって、それは永久に不可能なこととなった。

したがって、今われわれにできることは、このような不幸な事件が二度と起こらないように再発防止策を検討することしかない。

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原田 隆之 筑波大学教授

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はらだ たかゆき / Takayuki Harada

1964年生まれ。一橋大学大学院博士後期課程中退、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校大学院修士課程修了。法務省法務専門官、国連Associate Expert等を歴任。筑波大学教授。保健学博士(東京大学)。東京大学大学院医学系研究科客員研究員。主たる研究領域は、犯罪心理学、認知行動療法とエビデンスに基づいた心理臨床である。テーマとしては、犯罪・非行、依存症、性犯罪等に対する実証的研究を行っている

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