エリート医師が「地方」に魅力を感じるワケ 医師の価値観の変容が始まっている
もちろん、これまでも「自分にしかできない仕事」を求める医師はいた。その自己実現方法はさまざまで、診療技術をとことん追求する医師や研究に没頭する医師、海外で経験を積む医師もいれば、最近ではMBAを取得して病院経営に携わるような医師もいる。田上氏はこうした自己実現の選択肢の一つとして、「地方で活躍する」というキャリアが存在感を増しているのではと指摘する。東日本大震災が起こり地方に注目が集まったことや、ソーシャルメディアが発達したことで、全国各地のユニークな取り組みが医師の目につきやすくなったことが要因だと見ている。
「面白い仕事ができそう」ブランド確立に成功した亀田
田上氏のように、個人の裁量が大きいという地方の環境を生かして、独自の取り組みを展開する医師は多い。地方を若手医師養成のメッカにしようとチャレンジする医師、北米で学んだER型救急を地方で展開しようと挑む医師、ITスキルを生かして離島の情報連携基盤を整えようとする医師――それぞれの強みや、地域ごとの特色によってアプローチは多種多様だが、これらの精力的な活動が地方に与えるインパクトは大きい。
こうした医師のチャレンジ精神をうまくくみ取って発展してきた好例とも言えるのが、「地方のブランド病院」として知られる亀田メディカルセンター(千葉県鴨川市)だ。30年前20人程度に過ぎなかった同センターの常勤医数だが、現在は440人ほど(2014年7月時点)にものぼる。アクセスがいいとは言えない立地でありながらこれほどの人気病院に上りつめた背景には、前向きなチャレンジを好む医師を病院側がサポートし、学会やメディアを通じて積極的に情報発信し続けたことで、「亀田に行けば面白い仕事ができそう」というブランドを医師の間に確立したことが大きい。
もちろん、個人の裁量が増えればそれだけ負担も増えうるので、医師にとって地方での勤務が良い面ばかりだとは言い切れない。しかし、その負担感を上回るほどのやりがいを実感できる環境であれば、地方が医師にとって魅力的なフィールドとなることは確かだ。田上氏が指摘したように、ソーシャルメディアなどによって地方の成功事例が瞬く間に業界内に浸透していく現在、亀田メディカルセンターと同様の枠組みで地方の医療を発展させる医師、医療機関が現れる可能性は十分に考えられる。そうした成功事例が各地で集積されていけば、多くの課題を抱える地方の医療も着実に良くなって行くのではないだろうか。
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