ただし、EUV露光装置を使用しないマルチ・パターニング技術は歩留まりの向上が難しいことが知られている。図3にSMIC社の売上と営業利益の推移を示す。売り上げは増えているのに営業利益がまったく増えていない。さらなる詳細な分析は必要だが半導体製造装置の買いだめ影響があるほか、先端製品の歩留まりが低迷していることも主要因だと筆者は考える。
5nmノード世代までは経済合理性(製品歩留まり)を無視して量産してくるはずだが、EUV露光装置が必要になる3nmノード世代以降をキャッチアップするのは多くの時間を要すだろう。その意味で半導体製造装置輸出規制の効果はあると考えるが、この輸出規制は中国が半導体製造装置を内製する動きを加速させるだろう。
一方でニュースに出てこない問題は半導体設計技術の安全保障上の管理である。図4にアメリカ半導体産業協会(SIA)がまとめた分野ごとの地域シェアを示す。半導体の回路設計ツール・情報にあたるEDA&Core IPはアメリカが2021年で72%のシェアを占める。
設計技術の保持が今後の焦点
アメリカ製の設計ツールがなければ半導体チップの設計はできない。そのため、これらの管理・規制が次の焦点になるだろう。最近、ファーウェイ製品から規制されていたはずのTSMC製の半導体チップが見つかった。詳細はこれから明らかになっていくだろうが、ファーウェイの意図をくんだ第三者(を装った)ファブレス会社がTSMCに半導体チップを製造委託していたのではと筆者は考えている。
TSMCなどのファウンドリー(受託製造)企業は取引先の信用調査をもちろん行っていただろう。ただ、中国には1000社を超えるファブレス企業がある。それらの会社の資本関係のほか、縁故関係をすべて調査するのは限界がある。その点で今回のTSMC製チップがファーウェイから発見された事案は、今後の効果的な輸出規制のあり方を考え直すきっかけにする必要がある。
最先端半導体設計・製造技術はこれからのネットワーク技術、AI技術、データセンターに必須な技術だ。これらの技術を同盟国間で保持することが重要である。政治家や官僚などの政策決定に直接かかわる人たちは、規制の目的と効果を慎重に検討して必要な立法措置や政策運用を行ってほしい。
私の知人はこう語っていた。「中国は3~5年の短期間ではなく、10年、20年単位で考えている。どのような措置を取ろうが必ず追いつくだろう」。この数年の対中規制政策とそれをかいくぐるかのような中国側の対策の動きから、その言葉の意味の重さを感じている。
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